どんな場面でも心を一定の状態に保つルーティンを作る【スポーツメンタル学入門(3)】

一流と呼ばれる選手は、どんな場面であっても平常心を保っているように見える。そのためにはどんな方法があるのか? スポーツ心理学の専門家でオリンピック日本代表のメンタルコーチも務めている大阪体育大学の菅生貴之先生に答えていただきました。

 

動作に「意味づけ」をすることが大切

ーー緊張するような大舞台に立つ際、平常心を失わないようにする方法はありますか?

菅生 「ルーティン」と呼ばれる技法があります。緊張を強いられるような場面でも、特定の動作を行うことで平常心を保てるようにするもの。野球のイチロー選手が打席に入った際の一連の動作や、少し前に話題になったラグビーの五郎丸歩選手がプレースキック前に行う動作なら憶えている人が多いと思います。緊張するような場面であっても、決まった動作をすることで、いつも一定の心の状態でバッティングやキックをできるようにすることが狙いです。

ーーそれはスポーツの試合だけでなく、ほかの場面でも応用できますか?

菅生 そうですね。どのような場面でルーティンをするかにもよりますが、仕事で緊張する場面に向かう際などにも使えると思います。例えば、朝食の後に必ず一杯のコーヒーを飲む、あるいは靴を右足から履くといった何でもない動作でもいい。自分が平常心に戻れる動作や習慣に心理的な「意味づけ」をしてあげて、普段から繰り返しておくことが大事です。

© Nishihama – Fotolia

ーー普段から習慣にしておくことが必要なのですか?

菅生 普段やっていないことを重要な場面でいきなりやっても効果はありません。むしろ、緊張する場面で普段やり慣れないことをするのは逆効果です。スポーツであれば、練習の時からルーティンも繰り返し練習に取り入れて、その動作をすると自動的に練習時の精神状態に戻るくらい習慣にしておきましょう。

ーーなるほど。ほかにルーティンを作る際に注意すべきことはありますか?

菅生 大事なのは「神頼み」にしないことですね。やっている行為はゲン担ぎのように見えますが、自分が平常心を保って物事に臨めるというのが目的ですから、何かに頼る気持ちでは良くありません。そういう意味で、ルーティンになる動作は自分自身で作り、意味づけをすることが大事です。

五郎丸選手のルーティンはメンタルトレニングのコンサルタントと一緒に5年かけて作り上げたそうです。あの動作をすれば、誰でも正確なキックができるわけではありません。あの動作の一つずつには五郎丸選手自身が込めた意味があり、そうやって自分自身で、信頼するコンサルタントと時間をかけて作り上げたものだからこそ、ワールドカップといった極度の緊張を強いられる舞台でも、普段通りの精神状態を取り戻すことができたのではないかと思います。

菅生貴之(すごう・たかゆき)
1973年、東京都出身。大阪体育大学体育学部スポーツ教育学科准教授。日本大学→日本大学大学院卒。卒業後は国立スポーツ科学センターに勤務し、トリノ五輪日本代表選手のメンタルトレーニングを担当した。現在はスポーツ心理学の研究・育成、講演などメンタルトレーニングのスペシャリストとして活躍中。