ウエイトトレーニングの起源 【石井直方のVIVA筋肉! 第7回】

    “筋肉博士”として知られる石井直方先生が、経験と最新情報に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさについて発信する連載。第7回はウエイトトレーニングの起源と、人間の本能について考えてみました。

     

    ギリシア時代から知られていた「オーバーロードの原則」

    前回書いたように、人類は太古より筋肉を鍛えるという行為を生活の中に取り入れていました。自重以外の負荷を使った本格的なトレーニング、すなわちウエイトトレーニングの起源としてよく挙げられるのは、「クロトナのミロ」の逸話です。

    古代ギリシアの植民地だったイタリアのクロトナに生まれたミロは、少年時代から仔牛を担いで歩くことを日課とし、全身の筋肉を鍛えたとされています。牛は月日とともに成長していくので、負荷も次第に重くなっていきます。それを続けているうちにマッチョな青年へと成長したミロは、古代オリンピックのレスリング競技で6連覇という偉業を達成することになったということです。

    オーバーロードの原則はギリシア時代から知られていた

    この話がどこまで真実かはわかりませんが、筋トレの基本原則である「オーバーロード(過負荷)の原則」(筋肥大のためには通常使っている負荷よりも重くする必要がある)、「漸進性の原則」(トレーニング強度は少しずつ高めていかなければならない)などが盛り込まれているエピソードなので、トレーニング界では非常に有名になっています。またこれは、古代ギリシアの時代から筋肉を鍛える基本的なノウハウが、知識として広まっていたことの証明とも言えるでしょう。

    余談ですが、世界中で愛されているネスレ社の麦芽飲料『MILO(ミロ)』は、このミロにちなんで名づけられたそうです。タンパク質、ミネラル、ビタミンなど多彩な成分が配合されたこの商品は、栄養が不足しがちな時代に誕生したものですが、やがてミロのように強く元気な肉体をつくるための飲み物というイメージも確立されていきました。

    閑話休題。おそらく類人猿から進化してきた人類は、ある時代に「強い体の源は筋肉である」ということを体験から学んだのだと思います。古代オリンピックのような競技会が生まれ、レスリングの原型のような試合が行なわれるようになると、当然ながら、勝った人は強い人、負けた人は弱い人、という比較論が生じます。そして、どういう人が強いかを見てみると、どうも筋肉質の人が多いらしいと気づきます。強くなって試合に勝つためには筋肉を大きくしたほうが良さそうだ→筋肉を大きくするトレーニングをしよう→それにはどういう方法があるだろうか、というように考えが発展していったのだろうと想像します。

    もちろん格闘技の試合は力がすべてではありませんが、生理学的に強い力を出せることは重要な要素の一つになります。昔の選手はテクニックも未熟だったと思われるので、なおさら力がモノを言う場面が多かったはずです。

    こうして競技者がトレーニングをすることは次第に常識となっていったのだと思います。その後、一般の人までもが筋肉に憧れていったことは、ギリシア彫刻などを見れば明らかです。たしかな経緯はわかりませんが、本格的な競技者でなくても日常的に力比べを行なう文化が出来上がっていったのかもしれませんし、単純に競技に勝ったヒーローの肉体に近づきたいと思うようになったのかもしれません。

    いずれにしても、多くの神々が筋肉質の肉体を誇り、その肉体を服で覆わずに誇示するかのように彫られているということは、当時の民衆が筋肉に大きな価値を見出していたことを物語っていると思います。

    イラスト/此林ミサ

    石井直方(いしい・なおかた)
    1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
    石井直方研究室HP

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