「ガイドをしていたらつらいことは忘れます」筋肉ハローワーク第1回(人力俥夫・前編)




話すのが楽しくてストレスはないですね

第1回 金大熙さん(人力俥夫)

世の中にはたくさんの仕事があります。労働によって対価を得て、日々の糧にする。すべての仕事は尊いものです。その仕事で、体を使う仕事もたくさんあります。体を酷使する人たちの仕事ってどんなものなんでしょう。筋肉ハローワーク第1回目は浅草のイケメン俥夫の金大熙さんです。

――そもそも、俥夫に就こうと思ったきっかけはなんですか?

金:大学3年生の21歳のとき京都の嵐山のほうではじめたんですけど、そのころ人見知りだったんです。人と話すのが苦手だったので、それを克服するため。嵐山にいた俥夫は、僕と正反対。明るくて、声が大きくて、元気で、色が黒くて、ワイルド。僕にないものがあって、いいなぁと思って志望したんです。

――お客さまを乗せて人力車を漕ぐという仕事は、ハードだと思わなかったですか?

金:体力はたぶん、やってたらついてくるかなぁと思って。実際、慣れてくると、うれしさのほうが勝るんです。お客さんを乗せて走ってると気がまぎれるんでしょうね。最近テレビで見たんですけど、筋トレでも「やろう!」と思ってやるとストレスがかかるらしいけど、テレビを見ながらやると苦しさを忘れるらしい。だから、お客さんと話すのに夢中で走ってると、ストレスはないんです。

――真夏も厳冬も、悪天候も関係なしで走っている姿を見ると、過酷な仕事だとしか思えないんですが……。

金:休みなくお客さんを乗せつづけて食事を取ることもできないときは、たまに思いますけど。7時間連続とか。でも、いい力の抜き方がわかってるから、走るときと、止まって説明をするときをうまく調整してますね。

――お見かけした感じでは、長身でマッチョ。実に均整がとれた体型ですが、この肉体はどのようにしてつくられたんですか?

金:筋トレしはじめて、まだ1年半なんですけど、ハマっていくうちに自分で勉強していきました。YouTubeを見たり、雑誌を買ったりしながら。“筋トレユーチューバー”っていうのがいて、その人らが説明してくれるのをひたすら見ていると、知識をどんどん吸収していきました。1日のタンパク質の摂取量は、自分の体重の3倍のグラム数だとか、食事は5~6回に分けて食べるとか、勝手に入ってきましたね。

――筋トレをはじめるきっかけって?

金:いろいろとあって(笑)、心を落ちつかせようと、座禅をやったり、ヨガでインナーマッスルを鍛えたり。でも、インナーマッスルは見た目が大きくならないなぁと思って、筋トレになった。目に見えた結果が欲しかったんです。そこから、ダンベルを買って、ベンチプレスを買って、懸垂セット、軽量系のも買って、家でそろえていったんですね。ホームジムです。トレーニングを、部屋でできるようにしたんですよ。

――ジムに通わず、ホームジムを作ったのはなぜですか?

金:1人が好きなんです。1人の空間で、マイペースでできるのが。もうすぐようやくジムに通うんですけど。それは、足りない器具が出てきたんで、もっと細かいところを鍛えるために。なんか、好きなんですよ。好きな音楽をかけて、鍛えて、エネルギーを補給して、食事をつくってというライフスタイルが。

――開設されているFacebook を見ていると、プロアスリートさながらのストイックさと記録の細かさ。さすがに、ナイスボディになったと思いませんか?

金:まだまだです。細いですね。身長は186㎝で、体重は93㎏あるんですけど、身長がある人は筋肉をつけても細く見えるんですね。手首と足首のサイズで、その人の理想の彫刻体型が出るというデータがあるんですけど、ぜんぜん足りてない。腕は41cmなんですけど、理想は48cmとかなんで。

――そこまで追い込む理由は、あるんですか?

金:“オールジャパン・メンズフィジーク選手権大会”をめざしてるんです。トレーニングをはじめたときから、そこに出るのが目標だったんで。出るためにはどうすればいいかっていったら、逆三角形で、肩はメロン肩で、足がガッツリとあって、マッチョ。“フィジーク”で186㎝で優勝した人って、いないんですよ。人力車の後輩で、初出場で優勝した子がいるんですよ、もう辞めた子ですけど。そういうのを間近で見ると、僕も追いかけたくなります。

――次回は、大会出場をめざして具体的にやっていることをお聞きしましょう。

文/伊藤雅奈子