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自己管理ができない人は、もっと大きいものは管理できない【小泉憲治インタビュー(後編)】




仕事と競技の両方で結果を出したいんです

――前回から引き続きうかがいます。小泉さんにとってボディビルの魅力はどこにあるのでしょうか?

小泉 僕は、ボディビルはカッコいいと思いますよ。昔から女性目線で物事を考えたことはなくて、自分が単純にカッコいいと思えるからやっているんです。筋肉への憧れというのが人より強いかもしれないですね。
 中学時代に「アイアンマン」で筋肉の多い人たちを一番見ていたので、彼らへの憧れがまずありますね。あの時代だと、フレックス・ウィラー、ケビン・レブローニ、ドリアン・イェーツ、ショーン・レイたち。何が魅力かと言われると難しいですが、やればやった分だけのフィードバックが得られるということと、やはり単純に筋肉が好きだということの2つだと思います。

――筋肉の魅力とは? 一般の人から見ると、ジムに行って、辛い思いをして筋肉を鍛えるということだけでも不思議だと思います。

小泉 わかります。僕もトレーニング自体は大嫌いだったので、気持ちはものすごくわかります。

――だけど、やめられない何かがありますか?

小泉 あります。でも、動機の言語化がすごく難しいです。

――これは「鍛えている人あるある」だと思うんですけど、何を目指しているんですかと聞かれませんか?

小泉 聞かれます。そのときの答え方は、「負けず嫌いの延長戦です」と。まあフィジークで負けっ放しですし、ボディビルだともっと負けっ放しです。言い方は悪いですけど、僕に今まで黒星を付けた人間を絶対に許してはいけないですからね(笑)。絶対、俺がやめるまでやめるなよと。だから、僕が今年負けたとしても、来年まで延長戦という気持ちでやっていますから。そのへんはちょっと執念深いかもしれないですね。もちろん、選手の皆さんのことは尊敬をしていてカッコいいなと思っているんですけど、しんどい思いをして競技に出る以上は、そういう人たちの上に行きたいという思いが強いです。だから、しんどいトレーニングもやる。だから、競技的な意味で言ったら、負けず嫌いというところだと思います。

――体を鍛えることは、一般の方にとっては趣味の範疇のことですが、小泉さんにとっては、その趣味を超えて競技の世界に入っているという感じでしょうか?

小泉 あと、これも「あるある」かもしれないですけど、これ以外に人より秀でているものもない。自分のアイデンティティを守るためと言ったらちょっとカッコよく聞こえてしまうかもしれませんが、これがなくなっちゃったら、僕には人に自慢できるものがないんです。かといって、この競技の中でそんなに上ではないというところが僕の葛藤なんです。周りからはすごいと言われていても競技に出たらしょぼいというのでは格好が付かない。競技の中でも、一番というか、一流と呼ばれる人になりたいなと思って日々、エクササイズに取り組んでいます。

――日々の中で時間をどれくらいトレーニング時間を確保するかというのもかなり重要なテーマになってくると思います。

小泉 僕は株式会社湘南ウィンクルという会社を経営しています。仕事と仕事の合間に時間ができればジムに行くこともあります。僕も仕事を終える時間が結構遅いので、夜中の12時からトレーニングすることもあります。

――時間を確保するために注意していることはありますか?

小泉 トレーニングの時間を作りたいから仕事を巻こうとかという気は、僕の場合はないですね。あと、他の若い子たちが日中動き回っている時間は逆に僕の体が空くことが多いので、そういった時間をうまく使わせてもらっているというのがあるかもしれない。夜帰ってきた後にミーティングとかやって、なんかジムに行きたいからって時計をずっと見ちゃったりすると、周りも気分が良くないでしょうし。会社の雰囲気が悪くなるような時間の使い方はしないつもりで動いてはいます。

――あくまでも空いた時間をジムに充てるという感覚なのですね。トレーニング頻度は週に何回くらいなのですか?

小泉 週に10回くらいです。ダブルスプリットを半分くらい入れて、ほぼ毎日休みなしという感じです。

――大会が近くなってくると減量も入ってくると思いますが、そうするとまた仕事に影響が出ないようにという部分で注意しておられるのでしょうか?

小泉 トップビルダーを見ていると、トレーナーさんとして接客をやられている方も多いですよね。そういう人たちを見ていると、もちろん仕事柄ということもあって、絶対に人にそういった姿を人には見せないんですよ。加藤選手がイライラしている場面とか見たことはない。
 コンテストは、自分が好きでやっている、要はアマチュア競技なので趣味じゃないですか。それで仕事に影響を出すというのは本末転倒というか、それくらいしか自分を律せないんだったらやめた方がいいと僕は思っています。
 なので、仕事には、若い人間には伝えていて、本当にそれがボトムアップとして意見として伝わってくるかは別として、僕がそういった素振りを見せたら言ってくれと、そしたら俺はやめるという話は会社内で言っています。人によっては気分が悪い日、いい日というのはあるかもしれないですけど、常にカリカリするとかというのは、僕の中ではダメかなと。

――仕事にも影響を出さずに、会社も運営しながらコンテストに出続けるのは難しいことだと思います。それを実現している小泉さんのモチベーションはなんでしょうか?

小泉 欲張りだからですかね。僕は、どっちも結果を出したいですね。会社としての結果と、競技としての結果。

――エグゼクティブな方の中にはトレーニングしている人が多いと聞きますが、トレーニングしていくことが、経営者としての自分にいい面で影響していることはありますか? 

小泉 やはり自己管理ができない人間は、もっと大きいものは管理できないということに尽きるんじゃないですかね。「健全な魂は健全な肉体に宿る」という言葉がありますが、その通りだと思います。僕なんかグータラな人間なので、ジムという一本の軸があって、そこの中で、食事をきっちりしたりとか、リズムを整えてくれるものがあるから、その他、私生活だったり仕事だったりといったものがその軸に沿うようにまっすぐ伸びるというイメージはあります。

――トレーニングというものが自分のアイデンティティを作っているということでしょうか。「遊びたい」という欲求と「ジムに行けない」ストレスとでは?

小泉 ジムに行けないストレスのほうが問題です。遊ぶにしても、トレーニングを終わらせてからでないと行かないですね。最近、結構考えているのは、休みを取らずにトレーニングをしてきましたが、やはりケガが多くて、強制的には週に1回とか2週に1回とか、適当な理由を付けて休むようにはしています。友達との遊びとかも強制的に入れるようにしてジムに行けない環境下にします。何か理由付けしないとトレーニングで絶対に休まないんですよ、いろんな理由をくっつけてモチベーションを維持していくことが僕にとってこの競技を続けていける原動力ですね。

小泉憲治(こいずみ・けんじ)
神奈川県平塚市出身。177㎝75kg。2016年第2回関東フィジーク選手権オーバーオール優勝。2017年オールジャパン・メンズフィジーク選手権40才以下176cm超級2位。