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トータル550.5kg! パワーリフティング・マスターズを制した中高年の星・蜂須貢インタビュー②




マスターズクラスの現役パワーリフター&ボディビルダーとして活躍されている蜂須貢先生へのインタビューだが、前回はトレーニングをはじめた動機から、ボディビルやパワーリフティングの大会に出場してきたこれまでの経緯、さらには最近の世界的な実績までを伺った。2回目となる今回は、現在行っているトレーニング方法や食事について紹介したい。

 

ビッグ3を基本としたトレーニングメニュー

――それではトレーニングの内容について伺います。
現在は3分割でやっていますが、実は少し前までは毎日トレーニングしていました。でも半年前くらい前から休む日を多くしました。

――メニューを変えたということですが、何か理由があるのですか?
記録が下がってきたことからです。記録が下がる原因でもあるんですが、実は腰痛がありまして。そこで昭和大学附属の整形外科で診てもらったら、脊柱管狭窄症だと言われてしまって……。競技にも若干影響が出てきたことから休みを多くとるように変えました。
※脊柱管狭窄症とは脊椎の中にある脊髄神経の通り道が狭くなる病気。加齢や変性により骨や椎間板、周辺の靭帯などが厚くなることで神経へ圧迫がされ、痛みや痺れを引き起こす。

――それは困りましたね。
でも自分で治しました。たぶん骨盤が後屈していたんでしょう。そこで寝るときに腰に4~5cmの板を敷いて10分か20分寝るようにしたんです。そしたら今では随分痛みがなくなってきたんです。でも痛みがなくなってきたのは良かったんですが、一度扱う重量が落ちるとなかなか回復が難しい。そんな感じだったので、トレーニングは2日やったら1日休むというというペースに変えました。

――具体的なトレーニングメニューを教えてください。
基本はビッグ3。やはりパワーリフティングをやっているので「ベンチプレス」「スクワット」「デッドリフト」を中心にやっています。そしてそれぞれに合わせた補助筋のトレーニングを加えています。もう少し具体的にだとベンチプレスの日では胸や肩そして腕がメインとなります。スクワットでは当然、足がメインですが、あわせてチンニングなど広背筋もトレーニングしています。そしてデッドリフトの日にはシュラッグやベントオーバーローイングなどの肩や身体の後面を重視した内容を加えています。

――トレーニングの頻度は?
ベンチプレス系とスクワット系は週に2回、デッドリフト系は週に1回です。そして2日やったら1日休みというスケジュールです。例えば月曜にベンチプレス、火曜にスクワット、水曜は休み、木曜はベンチプレス、金曜はスクワット、土曜は休み、日曜にデッドリフト、というような感じです。そして休みの日には、仕事などの兼ね合いで完全に休むときもあれば、パワーリフティングの種目ではないボディビルのトレーニングにあてたりすることもあります。例えばアームカールとかサイドレイズ、チンニングなどのトレーニングです。ただこの辺りは大体の感覚です。トレーニングメニューなどをキッチリ決めて行ってはないので。

昭和大学付属のトレーニング室。昭和大学の教職員や学生たちが利用できる

ベンチプレスに設置されていたチェーン。一方の端が床に着くことで、挙上する高さによって負荷が変わる優れもの

野菜はいくら摂ってもいい

――食事については?
栄養に関しては子どもの頃から意識はしていたのだと思います。というのも、僕が子どもの頃に住んでいた場所は田舎でしてね、お祝いごとのある時はよく赤飯が出てきたんです。でも赤飯が出てくるときは他におかずがないんですよ。あるのはごま塩だけ…。子どもの頃、僕はおかずがない事が嫌いでした。

――面白いエピソードですね。
せめてそこに野菜があれば……。話を戻しますが栄養については、いつも頭の中では計算しています。食事は魚か肉かのいずれかを毎食付けるようにし、体重1㎏あたり2g程度のタンパク質を摂るようにしていますね。

――野菜にはこだわっているようですね。
僕の場合、野菜は無限に摂って良いと考えています。ただ生野菜だと量が摂れないので、野菜炒めにすることが多いですね。その野菜炒めも僕の場合は何でもありです。キャベツやニンジンなど野菜炒めでは一般的なものから、ブロッコリーやナス、カボチャや大根なんかも入れてます。たまにサツマイモは入れたことはありますがジャガイモはGI値が高いので入れません。
※GI値:グリセミックインデックスといい食後血糖値上昇の指標となっている。

――糖質制限はされていますか?
減量時のみ制限をします。炭水化物の摂取は1日のうちで朝が一番多く、昼は全く摂りません。夜はご飯だと茶碗に半分くらい。あと甘いものもついつい手が出てしまいます。意識しながらですが少量をいただくときがあります。そしてオフのときは甘いものの間食が増えるんです。甘いものを制限するしないでオンとオフが切り替わっている感じです。

――減量はどのくらい前から準備に入りますか?
試合の2か月くらい前です。主に糖質を徐々に制限していきます。肉の脂身は常に除きます。焼いたりする前にできるだけ脂身を除去するようにしています。ただし湯がいたりはしません。栄養成分が勿体ないので。例えば鳥の胸肉などは皮の裏の脂身だけは擦り取ったりしますが、皮自体はできるだけ食べるようにしています。減量方法はパワーリフティングでもボディビルでも一緒です。

――減量について何かエピソードはありますか?
実は昨年にボディビルの減量で失敗したことがありましてね。ボディビルの大会前日に秋田県の男鹿でパワーリフティングの大会があり、66kg級の計量はクリアしたんですが、計量が終わって食事を摂るわけです。食べないと力も出ませんし。翌日、金沢でボディビル・マスターズの大会があったんですが、夜行列車ではその大会に間に合わないので、キャンピングカーで移動したんですね。本来なら食事の後にゆっくりお風呂に入れば1kgくらいの減量は簡単じゃないですか。でもそれが出来なかった。翌日の大会本番では見事に調整失敗。前日のパワーリフティングの計量では65.55kgだったのがボディビル大会本番では67.2kgという状態で……。結果として2位となり、パワーリフティングとボディビルのW優勝は夢となりました。

クレアチンはよく水に溶かすことが大切

――サプリメントについてお聞かせください。
プロテインは当然ですけど、やはりサプリメントで効果を感じているのはクレアチンですね。使ってみて効果を実感していますし、理論的にも効果があるのは確実です。数値でいうと扱う重量が5%くらいはアップしますかね。クレアチンの摂り方は6週間オンで4週間オフ、そしてまた6週間オンと繰り返すようにしています4週間オフにすると3週目くらいから力がなくなるのがわかります。

――効果の高いクレアチンですが、摂り方のアドバイスをください。
クレアチンにも色々なタイプがあります。液体のものもありますが、結晶のものは基本的にはしっかり溶かさないと効果は出ませんね。クレアチンそのものは酸と塩基と両方の基を持っているので胃酸では溶け難い物質ですから、飲む前にしっかり溶かしておくことが重要です。

――それ以外のサプリメントは?
BCAAを摂っています。とくにBCAAはバリン・ロイシン・イソロイシンとありますが、その中でロイシンはタンパクの合成促進に関わっていて、さらにロイシンが分解したHMBという化合物がタンパクの分解抑制にも関わる、とても重要なアミノ酸です。またバリンとイソロイシンは筋肉の成分でもあり、トレーニングによって筋肉が壊れるのでそれを補う意味があります。ほかにはグルタミンですね。

――先生のご専門である薬理学は、先生のトレーニングに影響があったのでしょうか?
(少し考え込みながら)たぶん影響はあったでしょうが、それを意識はしていないというか……。生物の基本原理とか作用とかはある程度、頭の中に入っています。それが感覚的にわかっているので「こうした方が良い」とか「ここは無理しないほうが良い」という感覚が自分では持てているようには思っています。これは栄養でもそうです。

――最後にこれからの目標をお聞かせください。
トレーニングは80歳を過ぎるまで生涯現役でやれたらなぁと思っています。ただパワーリフティングやボディビルを続けることが目的ではなく、トレーニングを辞めたら身体に問題がありそうだからという逆の発想なんですけどね。タイトルについても、やっていれば勝手についてくると思っています。

蜂須先生は柔道整復師や鍼灸師を養成する「中央医療学園専門学校」で薬理学の講師も担当されている。ポスターは2014年、中央医療学園専門学校で開催されたときのもので「健康とパフォーマンス向上に関するサプリメントとそのメカニズム」とのタイトルで講演を行った

インタビューでは予定の時間を遥かに超え熱心に語ってくれた蜂須先生。スペースの関係ですべてを紹介することはできないが、トレーニングだけではない圧倒的なパワーを常に感じた。今回は蜂須先生の研究について深く取り上げることはできなかったが、その研究は量子力学や分子軌道法などに及ぶドラッグデザイン。これまでも、そしてこれからも、薬理学の分野では貢献してくださるだろう。そして今後のパワーリフティングやボディビルでの活躍も期待したい。

蜂須 貢(はちすみつぐ)
医学博士・薬剤師・昭和大学薬学部客員教授。昭和大学の大学院を修了し明治製菓に入社。並行して昭和大学医学部にも研究生として籍を置き最短6年間で医学博士を取得。博士号の授与と同時に米・コネチカット大学へ留学。帰国後は再び明治製菓と昭和大学で研究に従事。抗うつ薬とBDNFの関係などに関わる研究をしてきた。現在もマスターズの世界記録を多数保持する現役のパワーリフター兼ボディビルダー。


インタビュアー・立華徳之真(たちばなのりのしん)
パフォーマー。陸上競技・体操・バスケットボール・フィットネス・トレーニング・ジュニアスポーツ・体育施設運営管理・サプリメント・スポーツボランティアなどのスポーツ専門資格を所持。また柔道整復師・美容師・登録販売者・診療情報管理士として美容健康領域および出版・イベント・教育・ITなどの実務をこなす。パフォーマーとしては殺陣やアクション、神経系コーディネーションや能力開発など様々な分野で活動しているハイブリッド。AVEX Entertainment