パーソナルトレーナー本来の仕事とは【髙田一也のマッスルラウンジ 第2回】




タレントや会社経営者など多くのクライアントを指導してきたパーソナルトレーナー、髙田一也が「仕事」と「トレーニング」、「社会」と「トレーニング」の正しい関係性を探るこの連載。今回はパーソナルトレーナーのあるべき姿について。

 

他者の人生を変える仕事

学校の先生が生徒たちに勉強を教えられるのは当たり前のように、パーソナルトレーナーがクライアントに技術面の指導ができるのは当たり前の話です。「しっかりとトレーニング指導ができる」というのは、なんの自慢にもなりません。思い返してみると、学校には子どもに好かれる先生と、そうではない先生がいました。好きな先生が教えてくれることには、たとえ難しい科目であっても、自然と興味を持ったものです。トレーナーは、そういった存在になければならないと思います。

トレーナーとして指導を重ねていくと、指導したとおりにこなしてくれない人に対して、すごく悩むことがあります。このクライアントさんは、なぜ言ったとりにやってくれないのだろうと。どうすれば実践していただけるのか。そこはトレーナーにとって、すごく大きな壁なんです。

人は「できないこと」に対して、いろんな理由をつけたがるものです。それは仕方がないことではあるのですが、その言い訳を消してあげるのがトレーナーの仕事です。

なぜできないのか、理由をクライアントさんに語ってもらい、それを一つひとついていねいに潰していく。これがクライアントさんを理想の体に導くための指導だと思っています。できない理由を聞いたときに、こちらがどのように返せるか。そこが一つの大きなポイントになります。

僕は、クライアントさんが指導したとおりにやってくれない、イコール自分ができていない、と思うようにしています。だから、生活の中では気を抜く暇がありません。自宅にいるときもずっと「トレーナー」であり続けるよう、心がけています。趣味の時間などもなくしてしまったほうがいいとは思いませんが、そういった時間も気を抜かないようにしています。そういう取り組み方をしていかないと、子どもたちの好かれる先生のように、他者の人生に影響を与える仕事はできないと思っています。

以前は「私たちもこれだけ食べているんですよ」「こういった息抜きをしているんですよ」など、トレーナーはクライアントさんに近い存在であることを訴えかけたほうがいいと思った時期もありました。おいしいものが食べたい、遊びにいきたい。そう思う気持ちはすごくよくわかります。でも、「お客さんの気持ちがわからなくなる」という大義名分のもとに、おいしものを食べ続け、遊び続けることは自分に対する怠けなんじゃないかと。

今の自分がどこまでできているかはわかりませんが、僕はすべてにおいて「完璧」を目指したいです。「指導力」「エチケット」「コミュニケーション能力」「ビジュアル」なども基準を設けて、それらがちゃんと満たされているか、考えながら仕事をしています。

クライアントさんとしっかりと意思の疎通ははかれた上で、ある意味、一般を超越した存在になっていかないと「次の段階の指導」はできないと思っています。その領域に到達するのは難しいですが、トレーナーには肉体面以外でも「俺もこうなりたい」と思っていただける要素が必要です。生活だったり考え方だったりを通してクライアントさんに影響を与えることができないと、トレーナーの仕事はある程度のキャリアまでしか続けられないし、クライアントさんを本当の意味で変えることはできないと思います。

高田一也(たかだ・かずや)
1970年、東京都出身。新宿御苑のパーソナルトレーニングジム「TREGIS(トレジス)」代表。華奢な体を改善するため、1995年よりウエイトトレーニングを開始。2003年からはパーソナルトレーナーとしての活動をスタートさせ、同時にボディビル大会にも出場。3度の優勝を果たす。09年以降はパーソナルトレーナーとしての活動に専念し、11年に「TREGIS」を設立。自らのカラダを磨き上げてきた経験とノウハウを活かし、これまでに多数のタレントやモデル、ダンサー、医師、薬剤師、格闘家、エアロインストラクター、会社経営者など1000名超を指導。その確かな指導法は雑誌やテレビなどのメディアにも取り上げられる。
TREGIS 公式HP