日本のフィジカルスタンダードを変える!【いわきFCが描くサッカーの未来⑤】




底流にある観客へのサービス精神

天皇杯で「フィジカル旋風」を巻き起こしたいわきFC。この現象を、S&C(ストレングス&コンディショニング)の角度から捉える本稿も、今回で最終回。近い将来、「日本のサッカーのフィジカルスタンダードを変える」ために、日本のジュニア世代には何が求められるのか? 以下、いわきFCのフィジカル強化の責任者、「パフォーマンスコーチ」鈴木拓哉からの提言と要望である。

――サッカー選手は、いつ頃にウエイトトレーニングを開始するといいのでしょうか?
鈴木 高校生ぐらいですね。1年生で基本動作を自重で習得し、2年生から本格的に負荷をかけるという感じです。まずは押す、引く、お尻を引く、股関節を動かす動作、スクワットやジャンプ、そしてターンの仕方などの習得です。こうしたことを高校生のうちに学んでおいてもらうと、大学、社会に出た時、S&Cコーチもスムーズに指導ができます。

各部位を効果的に鍛えるメソッドを持ついわきFC

――日本の高校生は、あまりウエイトトレーニングの指導を受けていません。
鈴木 アメリカ留学時代、サッカー選手がウエイトトレーニングをしているのを見ていたのですが、帰国してショックを受けました。大学に勤務していたことがあるのですが、サッカー部は個人でやる程度でした。アメリカだと、大学1、2年生で、スナッチとクリーンの測定ができるんです。なぜなら、高校生のうちにやっているからです。日本の大学生の場合、「え? スナッチ? クリーン? なんですか、それ?」となってしまう。

――その時点で、すでに遅れているということですね。
鈴木 フロントスクワットなど、基本から指導しなければなりません。挙上したバーをキャッチする際に肘が出ないとか、肘を出すと膝が前に出てしまうとか、そうした問題の矯正も必要となります。そのため、測定するまでに、1年から1年半かかります。重い負荷でやる必要はないですが、高校生のうちから、しっかりとした基本動作を学んでおいてほしいです。そうすれば、ボトムアップと言いますか、日本全体のレベルが少しずつ上がると思うんです。大学に入って、すぐに測定できるようになるわけですし。

日本のフィジカルスタンダードを変えることを目指す

――いわきFCほど設備が整った環境は稀ですが、高校生年代、ジュニア層の選手が、用具が限られていてもできること、特にやっておくべき種目などあれば、教えて下さい。
鈴木 スクワットですね。フロントスクワット、バックスクワット、オーバーヘッドスクワット。これらができれば、大体の動作は取れると思います。ヒップヒンジやスクワット動作ができるようになる。多分、引く動作と胸の張り方もわかり、肩甲骨が寄せられ、股関節の使い方もわかる。もう少し言えば、ルーマニアンデッドリフトですが、知らない人が教えると腰のケガのリスクもあるので、それは避けたいです。もちろん、体幹は大前提です。棒1本、野球部ならバット1本あればできますしね。

――最後に、なぜサッカーにフィジカルが必要なのか、ご自身の考えを教えて下さい。
鈴木 やっぱり、人を魅了したいからじゃないでしょうか。もちろん、前提として、ケガしないとか、パフォーマンスを上げるとか、いろいろあります。これはドーム本社・安田取締役会長が仰っていた事ですが、極端な例ですけれども、僕がウサイン・ボルトと競うよりも、お相撲さんがウサイン・ボルトと競ったほうが、観客が盛り上がるんですよ。「ウワー!」ってなる。単純に、デカくて強い選手がフィールドを駆け回るほうが、人を魅了できて、より良いチームになるのではないかと思います。

ここが日本のサッカーを変える発信所となる日は近い

将来、Jリーグ昇格を達成する頃には、移籍などにより選手の顔ぶれも変わるだろう。その時、いわきFCは、どんな路線を行くのか。変わらぬ、フィジカル重視路線を貫く姿を見ていたい、そう願うサポーター、関係者は、数多いだろう。そして、他のクラブは、フィジカル面で、どんな対応をしていくのか。「日本のフィジカルスタンダードを変える」。いわきFCが提起した、日本サッカー界のフィジカル革命は、まだ始まったばかりだ。

取材・文/木村卓二