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緊張する場面で集中力を高めるには【スポーツメンタル学入門(2)】




プレッシャーのかかる大舞台であっても、自分の力を発揮し、結果を遺す一流のスポーツ選手たち。そんな場面でも集中力を保つための方法はあるのか? スポーツ心理学の専門家でオリンピック日本代表のメンタルコーチも勤めている大阪体育大学の菅生貴之先生に答えていただきました。

 

集中力を高めて「ゾーン」の状態を作るには

ーー一流のスポーツ選手は、緊張するような場面でも高い集中力を発揮して良い結果を残していますが、どうやってそのような状態を作っているのでしょうか?

菅生 競技に対して集中力が高まり、最高のパフォーマンスが発揮できる状態を「ゾーン」と呼んだりします。緊張しすぎるでもなく、適度に興奮していて、試合に対してワクワクしている。そんな心の状態の時といえばいいでしょうか。
そういう「ゾーン」の状態に持っていくのが上手な選手と、なかなかうまくいかない選手というのは存在します。上手な選手は、特に何もしていないように見えても試合に向けて高い集中力を発揮する状態に持っていく方法を知っています。そういう選手に対しては、メンタル学はあまり出番がありません。逆に技術はあるけれど、心の状態を作るのがあまり上手でない選手については、メンタル学の知見が役に立つでしょう。

ーーどうすれば「ゾーン」のような心の状態を作れるのでしょうか?

菅生 どの程度の緊張・興奮状態が適しているかは実は競技によって異なります。ゴルフや体操競技など、対戦相手に合わせるというより自分の力をいつも通りに発揮するような競技より、格闘技やラグビーなど対戦相手とのボディコンタクトを伴うような競技のほうがより高い緊張・興奮レベルが求められることは想像しやすいでしょう。
また、同じ競技であっても個人によって、どの程度の緊張・興奮レベルで力を発揮できるかは大きく異なります。まずは、自分がどのような心の状態の時に力を発揮できるのかを把握する必要があります。メンタルトレーニングの目的は、自分の心の状態をコントロールすること=「セルフコントロール」ですが、そのテクニックを学ぶ前に必ずやっておかなければならないのが、自分の心の状態を理解する「セルフモニタリング」です。

© wavebreak3 – Fotolia

ーーまずは、色々な経験をして、その際の心の状態を知ることが大切なのですね。

菅生 メンタルトレーニングの多くは、自分の“良い結果が出せた時の状態”を再現する方向で行います。過去に経験もしたことのない、今までやったことがないような新しい方法をいきなり試合でしても、良い結果に結びつくことはあまりないですから。

ーーなるほど。一朝一夕でできるものではないことはわかりました。それでも、あえて聞きますが、緊張する場面で集中力を高める方法は何かありますか?

菅生 緊張する場面だと、人はキョロキョロして視線が定まらないことが多いですね。そうした状況では、あえて一カ所に視線を集中することは集中力を高めることに効果があります。例えば、試合会場に必ず国旗が掲げられているなら、日の丸の部分を見つめ続けるという方法を選手と考えたことがあります。そして、そこに「集中」という文字が出て来ることをイメージして、より集中力を高めるような方法です。

ーー試合会場で日の丸を見つめ続ける選手がいるのは、そういう理由だったのですね。

菅生 おそらく、そうだと思います。ただ、国旗が掲げられていないと、どこを見たらいいかわからなくなってしまいますから、試合の会場に必ずあるものをイメージしておく必要があります。もし、そういうものがないのであれば、自分の帽子などの用具や手のひらを見つめてもいいかもしれません。これは、スポーツの試合に限らず、緊張する場面で集中力を高めるのに使える方法です。

菅生貴之(すごう・たかゆき)
1973年、東京都出身。大阪体育大学体育学部スポーツ教育学科准教授。日本大学→日本大学大学院卒。卒業後は国立スポーツ科学センターに勤務し、トリノ五輪日本代表選手のメンタルトレーニングを担当した。現在はスポーツ心理学の研究・育成、講演などメンタルトレーニングのスペシャリストとして活躍中。