運動を続けるための目標設定【スポーツメンタル学入門(4)】




一流と呼ばれる選手は、どんな場面であっても平常心を保っているように見える。そのためにはどんな方法があるのか? スポーツ心理学の専門家でオリンピック日本代表のメンタルコーチも務めている大阪体育大学の菅生貴之先生に答えていただきました。

 

運動を続けるための目標設定

ーー第1回で運動やトレーニングに挫折しないためには、心理的なハードルを下げることが有効という話を伺いましたが、ほかにも長く続けるためのポイントはありますか?

菅生 シューズやウェアなどを用意しておくことは、運動を始めたばかりの頃、三日坊主にならないためには有効ですが、だいたいジョギングなど一つの運動を6週間続けられると次の段階になると言われています。その後も続けるためには、個々人に合わせた目標設定が必要になってきます。

ーーランニングでいうと、レースや競技会のようなものでしょうか?

菅生 それも一つですね。走っているうちに「もっと速く走りたい」「タイムを縮めたい」と考える人にとっては、レースなどは良い目標になるでしょう。そういう人たちは速く走るためにフォームを良くしようとか、回復を早めるためにアミノ酸を飲もうとか、目標を達成するための方法を考え、一つの目標を達成したら、その上の目標と次々見付けていくことができます。ちょっと変な言い方ですが苦しいことを楽しめる人たちですね。
でも、ランニングでいうと人と競い合ったり、タイムを縮めたりするのではなく「ただ気持ち良く走りたい」という人たちもいます。当たり前ですが前者と後者では目標の立て方が異なります。気持ち良く走りたい人たちは、景色の良いルートを見つけるとか、好きな音楽を聴きながら走ってみるなどが、続けるためには有効でしょう。

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ーー最近は、ランニングサークルなどで仲間と一緒に走ったり、タイムを競うのではないイベントなども開催されるようになっています。

菅生 そうしたイベントは、楽しむために走っている人たちには良い目標になりますね。実は、そうやって気持いいペース(快適自己ペース)で走ったほうが気分の改善などの心理学的な効果は高いことがわかっています。同じペースで走っていても、それを「気持ちいい」思っている人のほうが、「苦しい」と思って走っている人よりも抑うつなどの改善効果が高いんです。ですから、そういう走り方を楽しむ人が増えているのは良い傾向だと思います。楽しみながら走っていれば、タイムも自然と速くなっていきますから。

ーーランニングに限らずトレーニングや、ほかのスポーツも「楽しいから続ける」という取り組み方ができると長続きしそうですね。

菅生 特に高齢者の場合、競技スポーツではなく運動を日常的に続けることが大切なので、そうやって楽しめることが重要です。ただ「週に3回歩いて」といっても苦痛に感じてしまう人もいますが、カメラを持って写真を撮りながらなら、とか友人と話ながら、ならば続くという人も多いはず。日本の場合、スポーツ=競技というイメージが強いのか、「のんびり楽しむ」ことができない人が多いように感じますが、もったいない気がしますね。
競技スポーツも、もちろん素晴らしいものなのですが、競技を離れても運動が続けられたり、そもそも競技をしない人でも様々なレベルの人が気軽にスポーツが楽しめるような環境が、子どもから高齢者まで整うと良いなと願っています。

菅生貴之(すごう・たかゆき)
1973年、東京都出身。大阪体育大学体育学部スポーツ教育学科准教授。日本大学→日本大学大学院卒。卒業後は国立スポーツ科学センターに勤務し、トリノ五輪日本代表選手のメンタルトレーニングを担当した。現在はスポーツ心理学の研究・育成、講演などメンタルトレーニングのスペシャリストとして活躍中。