【マインドフルネス瞑想で整える②】呼吸を感じるだけ、の瞑想から始めよう




自分を静かに落ち着け、心身をスッキリさせる習慣、それがマインドフルネス瞑想だ。今やあらゆるジャンルで取り入れられ、健康やパフォーマンス向上に大きな効果を上げている。偉大なるアジアの知恵を試してみよう。

これから、少しずつマインドフルネス瞑想になじんでいくために、まず抑えておきたいことを挙げておこう。

瞑想に、いろいろな効果を期待することは悪いことではない。たとえばストレスいっぱいの状態から脱出したい、という目的で瞑想を試すのは自然なことだ。

しかし、前回もお伝えしたように効果を期待しすぎると良くない。「効果が出ない」といってすぐ止めてしまえば元も子もないし、自分が狙っていたものではなく、別の効果が現れることもある。長い目で見れば、それが自分の本当に求めていたものだった、ということもある。

目指すのは、過去や未来にとらわれずに、「いま、ここ」に気づいている状態になることだ。それだけのことだが、これが結構難しい。

人間は自動的に何かの考えが湧いてくるようにできているからだ。その考えはどこまでも遠くへ飛んでいったり、深く潜ったりと、「いま、ここ」から離れていく。

たとえば、今美味しいものを食べているとする。ただ、美味しく味わえばいいだけなのに、「先週行ったあの店の料理より美味しくないかな」と比較したり(過去)、「○○という店で食べてみたい」と想像したり(未来)、考えがあちこちにさまよってしまう。

これは必ずしも悪いことではないが、常にこうした考え(この場合は欲望)に振り回されていると、自分を客観視しにくくなる。

いま食べているものの味や香りや感触から離れて、次々に湧き出る考え(思考)に支配されると、当然感覚は鈍くなる。

これは味覚に限ったことではなく、体の違和感によって異変を感じるのが人間の基本だから、思考で頭がいっぱいだと危険信号をキャッチする能力も鈍化するのだ。

また、人間は頭の中で考えたことと、現実とが区別できない傾向にある。例えば誰かの態度が素っ気ないと感じると、実際のところはわからないのに、「怒っている」「嫌われた」などと判断してしまう。

これは考えが考えを生み、現実ではないヴァーチャルな雑念によって自分が追い込まれて苦しくなる一例だ。

スポーツでも、さまざま理論を頭に詰め込みすぎ、それがバランスを乱してかえって動けなくなるという例が多い。何も考えずにやった方がうまくできた、というのは「いま、ここ」にいてプレーに集中できたから、と云えるだろう。

瞑想は「いま、ここ」から離れないような、重りやアンカー(錨)を自分の中に作る作業、といえるかもしれない。

まずは3分間の瞑想をやってみよう。
タイマーはあっても良いし、大体3分、という感覚でも良い。スマホはOFFにする。

手始めに「呼吸を感じる」簡単なやり方から。

1 背中を伸ばして両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座る
2 呼吸を感じる
3 雑念が出てきたら呼吸の感覚に戻る

基本はこれだけだ。

1 背中を伸ばして両肩を結ぶ線がまっすぐになるように座る

正座でも、椅子に座っても、あぐらで足を組んでもOK。
背中と腰に力を入れて伸ばすのではなく、体を軽くゆすったり、前後に傾けたりして、力が抜けるポジションを見つける。基本的には下腹に少しだけ力が入って、他の部分が抜けているのを感じ、猫背にならないよう意識する。目は完全には閉じずに軽く開けておく、「半眼」と言われる状態にする。

2 呼吸を感じる

自然に呼吸をして、胸や腹が膨らんだり縮んだりするのを感じる。
これを「実況中継」してみると感じやすくなる。

息を吸って膨らむ感覚のときは「膨らみ、膨らみ、膨らみ」と心の中で自分に伝える。吸っている時はずっと唱える。息を吐いて縮む感覚のときはずっと「縮み、縮み、縮み」と唱える。鼻を息が出入りしている感覚であれば「入って来る、出て行く」と感じ取って唱える。

3 雑念が出てきたら呼吸の感覚に戻る

雑念は自然に現れるが、呼吸に戻ることを忘れずに。出てきたなと感じたら、「雑念」と名付けて「戻ります」と心で言って、また呼吸に戻る。
3分たったら、大きく息を吐いて終わる。

どうだったろうか?環境が変わらないのに、始める前より少し静かに感じたり、視界が明るくなったり、と変化を感じた人も多いだろう。
特に変化を感じなくてもまったく問題ない。実感がなくても、「呼吸を感じ続ける、続けようとする」というこれまでにないメソッドを手に入れたことは間違いない。

これだけでも、大きな変化だ。
呼吸という人間の最も基本的な運動に注意を向けられたら、もうそれは一種のマインドフルネスだ。

今回は、早稲田大学教授で、マインドフルネス研究で知られる熊野宏昭氏が指導する瞑想の実践法を参考にした。ただし、「10~15分を目安に」と熊野氏は言っているが、あくまで体験ということで、まずは3分程度から始め、できるようであればもっと長く、とハードルを低くするのが良いと思う。

実際、マインドフルネスを取り入れているグーグル式でも、「3分間呼吸に集中する」というステップがある。ただし、他のトレーニング同様、不調を感じたらすぐ止めること。

まずは体験から。ぜひ試してほしい。

[参考文献]
『実践!マインドフルネス』(熊野宏昭:サンガ)
『「キラーストレス」から心と体を守る! マインドフルネス&コーピング実践CDブック』(熊野宏昭など監修:NHK出版)

文/押切伸一