ちびっ子レスリングの全国王者を多数輩出するAACCに潜入 阿部裕幸代表に聞く、強さの秘密~中編




AACC(Abe Ani Combat Club)は、総合格闘技、キックボクシング、柔術などを楽しみながら学ぶことができる格闘技スクール。3歳から中学生までを対象としたオリンピックレスリングでは、これまでに数多くの全国チャンピオンを輩出してきている。そんな名門クラブを率いる阿部裕幸代表に、子供たちへの指導について話を聞いた。今回は中編。

ルールを守れなかったら叱られて当然

――レスリングの試合は1対1なので、試合に出るのはハードルが高いかもしれません。そういうなかで試合で力を発揮できるのはどんなタイプの子ですか?

阿部 これはレスリングに限ったことではないと思いますけど、強い子というのは負けず嫌いな子。どの競技でも負けず嫌いな子は試合で力を発揮できるタイプだと思います。

――勝負ごとなので気持ちは大事ですね。

阿部 格闘技ですからね。ただ、ウチのOBで大学生になってもレスリングを続けている子たちは比較的、遅咲きの選手も多いかもしれません。早稲田大学に行っている米澤圭(昨年のインカレ王者)はオリンピック候補でもありますが、小学生の時も中学生の時も全国優勝はしていなくて、高校に入ってから強くなったタイプです。新大学生の稲葉海人(日体大)や安楽龍馬(早稲田大)も高校から強くなったタイプ。コツコツと一生懸命続けてやっていくことが次につながるんじゃないかと思ってやっています。

――小学校から結果を求める練習をするというよりは、コツコツと基礎を積み上げるような指導をしているのですか?

阿部 そうですね。小学生で結果を出すことがすべてではないですから。いい結果が出ている選手が多いのは本当にたまたまです。ウチでは練習中はチャンピオンのほうが怒られることが多いんですよ。

――というのは?

阿部 強くなると手を抜くことを覚えるというか流すことを覚えて、一生懸命がむしゃらにやらなくなってしまうことがあります。将来に向けてここでやらなければいけないというところで手を抜くことを覚えると、あとあと伸びなくなってしまうので、そういうところが目についたら注意するようにしています。挨拶をしっかりしないとか、声を出さないというのもそうです。やるべきことをやれていないと怒りますね。挨拶や返事はレスリングをやっている、やっていないにかかわらず、大事なことですから。

この日は4歳から中学3年生まで30名以上が練習に参加。年齢も性格も違う子供たちの練習に目を光らせる

――現在では子供たちの指導も慣れたものだと思いますが、最初の頃に一番難しさを感じたのはどんなことですか?

阿部 子供たちは一人ひとりみんな性格も違うということですよね。一生懸命やる子もいれば手抜く子もいるし、遊ぶ子もいるので。バラバラだとチームの練習としてよくないので、一つの目標というか、こういうふうにやるんだよと伝えるということにまずは時間がかかるかもしれないですね。

――結構怒ることもありますか?

阿部 怒ることもあります。怒るという言い方は少し違うかもしれないですけど、こういうふうにやったほうがいいとか、基本はこうでしょという部分を教えていく感じです。

――正しい方向に導くという感じ?

阿部 格好良く言えばそうです。ただ、こっちが叱っていても、一人ひとり伝わり方が違うので、こっちの伝え方もその時によって変えるようにしています。

――最近は学校でも先生は怒れないというか、「子供が怒られた!」と言って怒鳴り込んでくる親もいるというじゃないですか。

阿部 ここはレスリングをやる場所であって学校ではないので。ここで決めたルールを守れないというのは、叱られて当然ということを覚えなければいけないし、それによって学校生活でもプラスになることはあると思います。

――スポーツをやるということは集団行動とか礼儀とか、プラス要素が大きいですよね?

阿部 大きいと思います。ウチは武道ではないですけど、そういう部分を大事にしています。やっぱりそういう部分を最終的には突き詰めていくと、僕は空手の道場をやっているつもりでレスリングを教えているんです。

子供たちのコンディションにも気を配っている。自らテーピングを巻いてケアする場面も
阿部裕幸(あべ・ひろゆき)
1970年2月9日、愛知県出身。高校、大学ではレスリング選手として活躍し、その後は総合格闘家として、修斗、K-1、シュートボクシング、PRIDEなど様々なリングで闘った。指導者としての定評も高い。現在はAACCを主宰し、後進の指導に勤しんでいる。
AACC→www.aacc-sports.jp

取材&撮影/佐久間一彦