「自分の中ですごく幹があるな、と感じる」小平奈緒【名言ニュートリション】

平昌五輪スピードスケート女子500メートルで、五輪新の36秒94で金メダルを獲得した小平奈緒は、その1年前の2017年2月、世界距離別スピードスケート選手権で1位となった。

「精神面で土台がすごくしっかりしているというか、自分の中ですごく幹があるな、と感じる。動揺せずに自分のレースを組み立てられていると感じます」

上記は、その試合後のインタビューで語った言葉だ。

小平はオリンピックの前まで無敵の快進撃を続けた。金メダル最有力候補であることは間違いなかったが、オリンピックという舞台では何が起きるかわからない。しかし、小平はスケーティングが進化しただけではなく、メンタル面でも大きな確信が得られていた。

これまでの実践が並大抵ではないからこそ、嵐が吹いてもびくともしない、大木のような自信につながったのだろう。

小平奈緒は約13年間に渡って、信州大学の結城匡啓(まさひろ)コーチとともに二人三脚で世界の頂点を目指してきた。高校時代に好成績を収めた小平は、男子500メートル金メダリストの清水宏保を指導したことで知られる結城を慕って、信州大学のスケート部に入部した。

この進学は「人生の選択で一番の勝負だった」と小平は周囲には言っていたらしい。高校の全国大会で活躍した選手多くは練習環境の整った実業団に進む。

しかし小平は「文武両道でないと、トップは目指せない」と考えていた。国立大学の信州大にスポーツ推薦はなく、小平は大きな大会に参加し続けながら、受験勉強にも励んだ。

入試の前日は「これで人生が決まる」と思うと、食べたものをすべて戻してしまうほどの緊張に襲われたという。
(YOMIURI ONLINE 2018年2月21日より)

そこまでの気持ちで入った信州大だったが、結城の第一印象は「なんでこんなにスケートがヘタなのかな」というものだった。しかし、独特の練習法や指導法で小平のポテンシャルは大きく開花していく。

たとえばスケーティングの姿勢になり、超スローモーションで歩かせるトレーニング。体重移動のバランス感覚を養わせるためだ。遅ければ遅いほど、ごまかしが効かなくなる。ほんのわずかなバランスの乱れが、0.5〜6秒の差となってしまうというのだ。

小平は「忍者のように、這うように滑る」というイメージで動くよう心がけていた。

また、無駄のないコーナリングを実現するために、氷上にポリバケツを置き、それに捕まって小さくクルクルとコマのように回る。

しかし、さまざまな積み重ねがあっても2度のオリンピックでメダルには届かなかった。
結城コーチは「自分の指導ではダメなのか」と自信を失いかけたという。

転機となったのは小平のオランダ留学という選択だった。スケート王国に身を置いて、世界のトップレベルを実感する。コーチはマリアンヌ・ティメル。長野とトリノで計3つの金メダルとった名選手から王者としての心構えを伝えられた。

ソチ五輪の時はインタビューされると、「表彰台の頂から景色を見てみたい」と言っていたが、平昌の前には「ただひたすら究極の滑りを磨く」とメダルについては触れなくなった。

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また生活が変わることで小平は視野が広くなり、おおらかで楽観的になった。気持ちの切り替えもスムーズになった。2年間のオランダ留学から帰国した小平は、結城コーチと平昌五輪までの「22カ月計画」を設定する。

2人は、最新のスポーツ科学による、動作解析の装置を使ってフォームを分析した。浮き彫りになったのは、カーブを曲がる時に骨盤が傾き、片方の足が浮いて氷に伝わる力が弱くなっていること。

そこで骨盤の安定のため骨盤を左右に分けて考える「ヒップロック理論」にたどり着き、骨盤周辺の筋肉を片方ずつ鍛錬した。それだけで10数種類のトレーニングが考案され、実行された。

背骨を一つ一つ動かして連動するような、野生動物のような動きも意識して取り入れた。
また、女子の競輪選手より重いギアをつけての自転車トレーニングも重ねた。

そして、一本歯の下駄を履いてトレーニングは多くのメディアで注目された。不安定で履いて立ち続けるだけでも難しいが、小平はぐっとしゃがみ込んで姿勢を極端に低くしてもブレない。

それらの練習が総合されて、1000メートルの世界新を含む好記録が連続して生まれ、盤石の強さとなった。

オリンピック500メートル決勝当日には、周囲が驚くほど、よく食べたという。自然体そのものの気持ちで、戦いに臨んだのだ。

世界距離別選手権でのインタビューではこうも言っている。

「自信がなかった自分とはお別れができたかなと思います」

小平奈緒というフィルターを通せば、何気ない言葉も滋味深いものとなって、聞く者をひきつける。金メダルから一夜明けた記者会見でスケートの楽しさをこう説明した。

「スケートを通して、やっぱり氷に呼びかけるとその声がちゃんと返ってくるというのがスケートの楽しさだなと思っていて。やっぱり自分から一方的に押し付けるような声がけをするとまったく返ってこないんですよね」

自分を表現するとしたら、「求道者、情熱、真摯」の3つの言葉だという。究極のスケーティングを目指す小平にとっては、金メダルも通過点のようだ。前人未踏の領域へ。
目標が大きいからこそ、小さなことでは動揺しなくなる。

自分の歩んで来た道のりをふり返り、未来へとつなげること。
確かな自信の源はそこにありそうだ。

参照
「GET SPORTS」(テレビ朝日)2017年2月27日放送
「ニュースウオッチ9」(NHK) 2018年2月18日放送

文・押切伸一