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【コラム】大学スポーツの未来①




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去る5月16日、東京大学本郷キャンパスにて、「大学スポーツの未来」と題する特別シンポジウムが開催された。主催は東京大学スポーツ先端科学研究拠点(※東京大学社会連携本部との共催)。異なる研究領域に取り組む16の部局が参加する学際的拠点であり、本サイトで連載コラム「石井直方のVIVA筋肉!」を執筆する「筋肉博士」、石井直方が拠点長を務める組織でもある。

日本のスポーツの黎明期から、大学スポーツは、大きな役割を担ってきた。このことは、藤井輝夫(東京大学大学執行役・副学長、同大学社会連携本部長)が開会挨拶の中で述べた、スポーツが「大学の活動と切っても切れない存在」であり、「学術対象」でもあるという言葉に集約されている。

スポーツと大学の密接な関係は、過去の歴史に収まるものではない。特別講演において、衆議院議員の遠藤利明(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長代行)が、「大学スポーツの未来」というシンポジウムのテーマを、「東京大学による日本のスポーツの未来」と再定義したように、この会の開催は、日本のスポーツ界の将来的発展を見据えた、東大の研究者たちの、並々ならぬ熱意の発露とみてよいだろう。

ちなみに、シンポジウム前半の進行を務めたのは、テレビ東京アナウンサーの水原恵理。現在は経済番組を中心に活躍する水原アナは、ラグビーやフィールドホッケーをプレーし「趣味筋トレ」を堂々と公言する、女子アナ界切っての筋肉派。こんな人事起用にも、このシンポジウムに掛ける東大の本気度が伝わってくる。

挨拶を含め14人が登壇、多岐に及ぶ発表が展開された第一部「東京大学の先端技術によるスポーツを通じた社会貢献」は、簡潔にまとめてしまえば、「最先端科学研究によるスポーツ支援」。2020年東京オリンピック・パラリンピック関連での使用に限り、東大が持つ特許などの知的財産権を無償で開放するという報告は、その象徴と言えよう。根底にあるのは、2020年大会を、「競技だけでなく、その国の文化や技術を発信し、世界に浸透させるきっかけの場」として捉えるという思想。テロ対策、渋滞の解消などに加え、防犯カメラと関連する、映像からの行動認識についての説明もなされた。

ただし、スポーツ支援の中心は、やはり競技力向上。石井以下5人の研究者が、「トップアスリートによるアスリート強化」につながる最先端研究の発表を行った。

中澤公孝(東大大学院総合文化研究科教授)は、パラリンピックアスリートの驚異的運動能力に着目し、選手たちの脳に再編が発生し、その担当領域に変化が発生することを報告。例えば、手を動かす領域が、足に及ぶようになるといった事例である。こうしたことから、「ブレイン・ドーピング」という言葉に象徴される倫理的課題があるものの、電気刺激を脳に与えることにより、パフォーマンス向上の可能性があることなどが説明された。

染谷隆夫(東大大学院工学系研究科教授)は、「次世代ウェアラブルセンサ」と題し、現在は医療目的だが、将来スポーツ分野での導入も期待される、肌に張るタイプのディスプレイについて報告。

徳野慎一(東大大学院医学系研究科特任准教授)は、「アスリートのマインドケアおよび強化を、音声によってモニタリングする」ことについて発表、血液や尿と異なるモニタリングについて言及。

中村仁彦(東大大学院情報理工学研究科教授)は、ビデオモーキャップによる運動解析の現状と可能性について解説を行った。

なお、特別対談として行われた「女性アスリートへの医療支援」、筋肉博士による「高/低酸素環境を利用した筋機能強化への新しい取り組み」、そして第二部については、後日、改めて詳しく取り上げたい。

取材・文/木村卓二