【コラム】大学スポーツの未来②

5月16日に東京大学本郷キャンパスで開催されたシンポジウム、「大学スポーツの未来」の報告となる本稿。今回は、特別対談として行われた、「女性アスリートへの医療支援」について取り上げる。

「東京大学の先端技術によるスポーツを通じた社会貢献」というテーマのシンポジウム第一部。その中で、異彩を放っていたのが、東京大学医学部産婦人科学教室の能瀬さやかと、北京とロンドンの2つの五輪に出場した元競泳日本代表の伊藤華英による、女性アスリートが直面する問題についての特別対談である。東大の最先端科学研究の報告会という全体にあって、1つだけ社会学の調査報告のような異端的内容であるが、重大であるからこそ、「特別」対談として場を設けられたと言ってよいだろう。

まず、能瀬による報告。主要部分を簡潔に記すと、以下のようになる。①女性アスリートが陥りやすい健康管理上の問題点として、「LEA(Low Energy Availability:利用可能エネルギー不足)」、「無月経」、「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」があり、これらは「女性アスリートの三主徴」と呼ばれ、どれか1つでも兆候があると、疲労骨折などのリスクが高まる。②女性アスリートの4割が月経周期異常を経験している。③欧米の女性アスリートの83%が低容量ピルを使用していたのに対し、日本人選手は2012年ロンドン五輪で7%、2016年リオデジャネイロ大会で27%に留まるなど、日本の女性アスリートは対策を知らない。④体操やフィギュアスケートなどの審美系競技の選手で16.7%、陸上長距離などの持久系競技種目の選手で11.6%が、無月経症状状態に陥っているとする報告がある。

これを受けて、伊藤が自身の関連体験を語った。主な内容は、以下の3点。①2012年当時、ピルの使用というオプションを教えてくれる人は少なく、日本ではドーピング扱いと思われていた。②北京五輪の時、低容量ではない強いものを服用したところ、約5kg体重が増えてしまった。③現役時代は知識不足で、産婦人科の存在が遠いものだった。

最も情報を与えられていると想像されるオリンピック選手ですら、そうした環境下で競技をしていたのが遠くない過去の日本における状況である。現在、漸進的改善傾向は見えるものの、劇的な変化が生じたわけでもない。現役時代に「なぜピルを飲んでいないの?」と海外の選手から言われていたという伊藤の言葉は、象徴的だ。能勢は、「低容量ピルの使用をオプションとして知って欲しい」と述べ、「知らないことで、パフォーマンスを落としている選手がいる」ことを指摘する。

だが、この問題は、パフォーマンスの低下に留まるものではない。司会を務めた水原恵理が指摘した、「健康のためのスポーツが、健康を阻害する結果になってしまっている」ことは、さらに重大な問題だ。この対談で触れられた話題ではないが、今年の2月、元体操選手の岡部紗季子が、初めて生理が来たのが21歳だったという、自身の体験を公にしている(https://the-ans.jp/column/16842/)。女性アスリートの三主徴の1つにLEA(利用可能エネルギー不足)があることは既述の通りだ。岡部の事例は、過度の体重制限や、消費エネルギーに摂取分が追いつかぬことなどが、いかに女性アスリートの身体に影響を及ぼすかを如実に物語っている。

能勢が「月経周期異常はスポーツに必要なエネルギーが確保されていないサイン」であることを指摘し、「産婦人科と公認スポーツ栄養士との連携が必須」であることを訴え、この対談は幕を閉じた。この特別対談が、広く啓蒙につながることを期待したい。水原が述べたように、この対談の内容は、「中高生から必要な知識」であるはずなのだ。

取材・文/木村卓二