運動会屋って何だ!? ~①運動会の力で社会を幸せに




「運動会屋」をご存知だろうか? その名の通り、さまざまな運動会をプロデュースするのが仕事で、昨年は国内外で230件もの運動会を運営したプロフェッショナル集団だ。運営組織であるNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズの米司隆明代表理事に、運動会屋の歩み、そして運動会が組織や社会に与える影響について聞いた。

スポーツの力で社会を元気に!

米司さんがNPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズを創業したのは2007年のこと。スポーツの力で社会を元気にしたいというのが、そのモチベーションだった。

「90年代の終わりからIT企業が次々と注目を浴びるようになり、その影響で社会が変わりました。日本企業は終身雇用でやってきたのが成果主義に変わり、上司と部下が飲みに行かなくなったり、若者の離職率が問題視されるようになったり。また、コンピュータで仕事が完結するために、一日中誰とも会話をしなくても仕事ができてしまうとか、子供の引きこもりのニュースも盛んにあったような時期でした」

こうした社会の状況を見ていて、スポーツの力で社会問題を解決できないかと考え、NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズを創業。ビジョンはあったものの、この時点では運動会という発想はなかった。

創業当時はフットサルがちょっとしたブームだったこともあり、フットサルのイベントで人を集めて、スポーツを通じて新しいコミュニケーションを生むことを試みた。

ところが、球技は参加できる人数も少ないため、企業とはうまくマッチせずに失敗。こうした経験を経て、たくさんの人が一緒に楽しめるスポーツイベントとして、運動会がいいのではないか?という仮説にたどり着いた。

「運動会をやっていこうと決めたものの、『運動会をやりましょう』という営業をしても誰も聞いてくれないんですよね。バブルの頃は会社で運動会をやっているというのはよくあったのですが、バブル崩壊後、日本型経営の良かったものが崩れてしまった。余分な経費をかけないということで運動会をやる企業がなくなってしまったんです」

会社で運動会をやるような時代は終わった。それが世間の評価だった。しかし、米司さんは「運動会は絶対にいい」という思いで、地道な営業活動を続けていく。ホームページをつくり、なけなしのお金を使ってリスティング広告を出した。すると、大阪の美容院から「運動会をやりたい」という依頼が舞い込んできた。

初めての仕事が決まり、喜んだのも束の間、大きな問題があることに気づく。運動会をやったことがないので、やり方がまったくわからなかったのだ。そこで中学時代の恩師のもとを訪ね、運動会のレクチャーを受けた。社員も自分一人だったため、学生時代の同級生2人に協力してもらった。運動会道具もレンタルできないものは手作りして、初めての運動会をなんとか形にした。

「最初の運動会は100人規模の運動会だったんですけど、今にして思うとグダグダな運営だったと思います。それでも運動会自体は関西のノリと若い美容師さんのノリで、すごく盛り上がったんです。運動会は本当に素晴らしいものだという確証を持てて、これをやることが僕の使命だと思いました。一つ経験できたので、運動会はこんなに素晴らしいんですよということが言えるようになったんです」

現在ではたくさんの運動会道具を所有している

リーマンショック、東日本大震災
一致団結のための運動会

「産みの苦しみ」という言葉があるように、何事も0のものを1にするのは大変なこと。運動会屋は一つの成功体験を得たことで、進むべき道に自信を持つことができた。はじめは1件だったものが5件になり、次は10件になり、昨年はなんと230件。運動会の件数は一度も減ることなく、増え続けている。

「急激に増えたという印象はなく、だんだんと広がった感じですが、ところどころできっかけはあったと思います。たとえば2008年のリーマンショック。運動会事業をスタートしてすぐにリーマンショックがあったので、これはもう終わったなと思ったのですが、逆に運動会をやる企業が増えたんです。不景気を脱するために組織の結束を高めるという理由や、予算がないから社員旅行の代わりに手軽な運動会をやろうと選んでくれた会社もありました。また、2011年の東日本大震災のときは、世間の自粛ムードもあり、春の予定は軒並み変わってしまいましたが、その反動もあって秋はものすごく実施が増えました。社員を大切にしよう、絆を深めたい、という人のつながりを運動会に求め、お店は流されてしまったけど、だからこそ運動会で結束しようという実例もありました」

基本的に「楽しそう」という理由だけで運動会をやろうという企業はほとんどない。多くの場合は、課題を解決するための手段として、運動会を選択している。米司さんは「運動会はスポーツではあるけど、手段だと思っている」という。

「たとえば会社だったら課題を解決する手段ですし、地域だったら地域の人たちが触れ合う手段。学校だったら教育という手段ですよね。企業の場合、開催目的で多いテーマはコミュニケーションです。運動会を開催するとコミュニケーションが活性化して、部署間の風通しが良くなったり、チームワーク、仲間意識が高まります。その結果、生産性の向上につながる。あとは健康経営という言葉もありますけど、健康志向、リフレッシュ効果という狙いもあるでしょう。運動会にはいろいろなメリットがあるので、そういう目的を持って運動会をやる企業が増えています」

(次回は実際に行なっている運動会の話や今後のビジョンについてです)

取材&撮影・佐久間一彦

運動会屋へのお問い合わせはこちら→http://www.udkya.com/