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見る力=ビジョントレーニング:飯田覚士④【水道橋博士の体言壮語】




ビジョントレーニングで自分の“中心軸”を知れば、今の自分ばかりか将来も見えてくる!?
ボクシング元WBA世界スーパーフライ級チャンピオンの飯田覚士氏が伝授する「見る力」の最終回。ブレない軸はこうして作れ!

中心軸のある生き方をしよう!

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前回、両眼視のチェックを行なったが、水道橋博士は眼球運動のトレーニングにもトライ。飯田氏が動かすボールペンを眼球の動きで追う。水平運動、上下運動、寄り目など、あらゆる方向に偏ることなく目が動かなくてはならない。このとき、顔は動かさないことが大切だ。

眼球運動は、主に目を動かす6つの筋肉を鍛え、目の動きを素早くスムーズにするのが目的だ。眼球運動の能力が低いと、球技でボールや人の動きをとらえられない、文章を読むのが遅い、といったことが起こりがちである。

飯田:博士さんの場合、水平運動がとてもスムーズなのですが、上下の運動が良くなくて、この方向はかなり使っていませんね(笑)。でも、これはトレーニングすれば向上しますよ。例えば村田諒太選手の場合は眼球運動で寄り目の動きがとても良くなりました。

博士:う〜(目を抑えてうつむく)疲労感が半端ない……。

飯田:(笑)。ちょっとやっただけでも、意外にキツいでですよね? ふだん、目の一部の筋肉しか使っていないので、僕も最初はとても疲れました。でも、慣れていきますし、目の動きは何歳からでも鍛えられます。

博士:そうか……、一時期、本格的にやっていたんだけど、眼球トレーニングとして卓球をやるのはどうですかね?

飯田:(笑)。卓球はいいと思います。

博士:卓球は、飯田さんや具志堅さんがやっていたというし、俺も、仕事部屋に卓球台を置くほど凝っていたからね。ゲームとして楽しいし、確実に上達していくことが実感できるから。ところで、飯田さんは本の中でビジョントレーニングがしっかりできてくると、中心軸がわかってくると書かれていますが?

飯田:それがビジョントレーニングの本質だったりします。中心軸は地面に対して垂直な一本の軸にイメージで、体の真ん中を通ってストンと地面突き刺さるような感覚があります。距離感は結局自分の中心軸が基準となります。自分の中心軸を維持するには自分の体のフォルムはどんなで、サイズはどのくらいで、どのような動きをするのかをまず認識すること。これはボディーイメージ力と言われていますが、崩れてしまったバランスを戻すときも中心軸がわかっていれば素早く戻せる。「自分の体を知る」というのが「見る力」を高めるトレーニングの基本となり、中心軸を把握するのが要となります。

博士:よく「軸がブレない」とか言うけど、そもそも中心軸がわからなくてはブレてるかどうかも本当はわからないですね。

飯田:そのとおりですね。自分の中心軸が基準となって、360度の座標軸が作られます。中心軸があり、座標軸が把握できていればスポーツに生かせます。サッカーであれば広いフィールドの座標軸があって、敵味方入り乱れる中でどうボールを動かすかを把握する。ボクシングであれば相手との距離やリングの大きさの座標軸があって、どう動くかを把握する、といった感じです。

博士:スポーツだけじゃなくて、ちょっと哲学的だけど、当然、生き方にも中心軸というのがあると思うね。何を基準として生きるのか。何かを始める時はこうなりたいという志があったんだけど、いつの間にかこんな風になっちゃった、と言う人が世の中にいっぱいいるじゃない。でも、自分の中心軸からずれているかどうかを考えながら行動するとそうはならない。仕事だけではなく、プライベートや学生時代や結婚生活もそう思える。“一発屋芸人”なんかはみんな中心軸からズレてる。良かった頃を振り返って、あの時、俺こういうことができたのになぁ、こういう仕事が来たのになぁ、と愚痴っているけど、その成功があるんだったら、できることがたくさんあるはずだって思う。地図で考えるとこのルートをここからこう行って、ああ行って、とやっていけばいけるじゃん、と思うんだけどね。中心軸がないから、みんな、迷ってばかりで、軸を取り戻さないまま漂流する。自分は入門した時からそういうことを考えてきた。芸人の場合はまず師匠との関係があって、それを裏切らないと言うのが中心軸。師匠はいわば道標(みちしるべ)なんです。過去も現在も未来も、ボクは常にそれを意識してきたね。

飯田:博士さんが言われているのは、時間軸を含んでの見る力と言うことですね。その前の段階、自分がどう見ているか、その次に相手からどう見えているかを全く考えていない人が多いのが現状です。どんな生き方をしたいのか、そのためには今何をしなければならないのか、さらに、周りの環境、自分以外の人の変化を含めた将来もイメージできれば人生設計を具体的に描くことができます。「見る力」はイメージする力も高めてくれます。

——ボクシングやスポーツ以外の日常的な場面でもビジョントレーニングが大きな効果が期待できるということですね?

飯田:トレーニング効果としてコミュニケーション能力が上がる、というのがあります。それは相手目線で考えられる、ということ。社会がギスギスした感じがありますが、まず自分を見る力をつければ相手のことも見えてくるし、思いやることができて、優しくなれます。また、広い視野で物事も見られる。そういった面の効果も伝えていきたいですね。

博士:視野が狭いと生き方が行き詰まるしね。若者が未来を悲観するときは、狭い組織の論理に陥りがち。広い視野で見れば、組織に問題がある場合、それは上司、より責任がある人が悪いに決まっている。今の政権や官僚の問題でも忖度なんかしないで、国会で本当のことを言えば、官僚が英雄になれることもあるでしょ? アメフトの問題でも、宮川選手がやったことを反省して正直に会見したら、彼は加害者ではあるけれど、被害者としての面もあると分かって「よく言った」という声が上がる。目先のことだけじゃなくて、なぜそういう視点を持たないのかが不思議だよ。

飯田:博士さんは視覚能力が高くて、こうなったらこうなる、と先まで映像として見えている感じがします。

博士:いやいや、まだまだ志の目を見開いてビジョントレーング、やらなきゃなあ! コレ(スープリームビジョン)買おうかな…。


≪博士の体言止め≫
ボクは約30年前に『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』に作家のダンカンさんの付き人として、スタッフの末端に加わっていたので、あの「ボクシング予備校」の飯田選手と再会できたのは人生に予見していない思いも寄らぬことでした。
そして、その元世界王者がジムを作ったら、後進にはボクシング技術だけではなく、ビジョントレーニングを指導にしていることは注目に値します。ビジョンという概念と芸論が通じることが多く、会話も刺激的でした。多くの人が「人生観」を持たずして、長い人生を送っていると思いますが、「観」をトレーニングするという手法は、全ての事象に目を見開くポイントになると思います。ボクも今回で開眼できました。

水道橋博士(すいどうばしはかせ)
1986年にビートたけしに弟子入り、翌年、玉袋筋太郎と「浅草キッド」を結成。芸人としてはもちろん、文筆家としても精力的に活動。『藝人春秋2』(文藝春秋)『博士の異常な健康―文庫増毛版』 (幻冬舎文庫)など著書多数。日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』の編集長、またユーチューバーとしても絶賛活動中。
飯田覚士(いいださとし)
第9代WBA世界スーパーフライ級チャンピオン。日本視覚能力トレーニング協会代表理事。2004年、「飯田覚士ボクシング塾ボックスファイ」を設立し、ビジョントレーニングと、体幹トレーニングを融合させたオリジナルプログラムを開発。プロボクサー村田諒太選手の目のトレーニングを指導している。http://www.boxfai.com/

取材・押切伸一/撮影・佐久間一彦