プロアスリートから80歳超のおじいちゃんまで。みんなのパフォーマンスを挙げる「Matsuo method」の秘密に迫る④

研究を重ねて、ケガの予防、パフォーマンス向上につながる「Matsuo method」を編み出した松尾祐介さん(WINNIG BALL代表)のインタビューを3回にわたってお届けしてきた。最終回となる今回は実戦編です。

いざ実戦、Matsuo method

ひととおりお話を聞いた後、いよいよレッスンを受ける。当方、腰痛持ちの中年草野球プレーヤー。年々落ちるパフォーマンスに、試合翌日に襲ってくる腰痛。なにかヒントをいただけるのではないかと期待が膨らむ。ところが、レッスンにはバットもボールも必要なかった。

松尾さんが取り出してきたのは、バランスボール。両手で抱えるほどの大きさのアレだ。「まずはこれに乗りましょう」と言われるがままにトライ。しかし、これ、できないんだよなあ。

ボールの上に尻を乗せて足を伸ばす松尾さんの横で、悪戦苦闘する記者。5秒ともたない。 そんな記者を尻目に、今度はボールの上に馬乗りになる。

むろん記者にできるはずがない。前に倒れていくのが怖いのか、ボールに乗った途端、お尻の方にボールが回転していく。へっぴり腰になっているのは分かるのだが、何度やってもうまくいかない。

ようやくバランスボールが終わると、マットの上へ。ここからは5分ほど、ちょっとしたストレッチのようなトレーニングとなる。

まずは、仰向けで足を伸ばし、両手をマットについて、お尻を上げる。頭から足先までまっすぐにするのだが、これだけでも結構つらい。そして、腰を左右にひねる。たったこれだけの運動なのだが、背中がつりそうになる。松尾さんは骨盤が、床と直角になるくらいにまでひねれるのだが、私は片側のお尻を少し上げるので精いっぱいだ。悪戦苦闘する記者に松尾さんが声をかけてくれる。

「普通の人はなかなかいきません(笑)。できる、できないは最初は関係ないです。こうやったらできるというのを芽生えさせる指導ですから」

その次は、上を向いたままヒザ曲げ、肩甲骨を寄せる。背筋が伸び上がるのだが、 体が固くなった中年にはこれだけできつい。そして、その状態で折れた足を左右に2回ひねる。

松尾さんの両膝は床につくのだが、45度ほどひねったところで記者の腹筋はつりそうになる。実はこれがミソなのだが、記者はこのときは内心「いつまでこんなことやらせるんだ」としか思わない。その後、ヒザを正面に戻し、左右のお尻を少し上げる運動をして終了。再びバランスボールに乗る。

これを他人がやっているのを見せられたら、「やらせ」としか思わないだろう。しかし、5分ほどのマット運動で、本当にボールの上に乗れるようになったのだ。松尾さんは、「80歳のおじいちゃんがいくらでも乗れるようになります」と言うが、一旦できるようになると、人間楽しくなるもので、取材以降、行きつけのジムに行く度、バランスボールに乗るようになった記者は、今では5分でも10分でも乗り続けることができるようになっている。
 
要は柔軟性プラス、バランスなのだと松尾さんは言う。

「やっぱり意識の違いは大きいです。バランスボールと言えば、体幹トレーニングで、ボールにしっかり重心を乗せて、体幹をまっすぐ保っていれば、乗り続けることができるってみんな言いますよね。だから、みんな体をガッって固めてしまう。でも、そうじゃなくて、体幹でうまくバランスをとるんですよ。使える体幹なのかどうかってことですね」

これは後でボールに乗る自分を見て気づいたことなのだが、ボールにうまく乗っているときは、骨盤が水平に保たれ、体側の腹筋を使って下半身がバランスをとるため微妙に動いている。指導を受けるまでは、これが硬直していたため、一旦バランスが崩れると立て直すことができなかったのだ。

これがMatsuo methodの基本だと松尾さんは言う。

「どんなスポーツをするにしても、一人ひとり体が違うと言っても、根本は変わらないんです。だから十人十色の真ん中にあるものを目指す、そういうことです。だから、おじいちゃんもプロ選手もここから始めます。私は障害者の方もお世話したことがあるんですけど、障害があるっていうのと、トップアスリートの不調というのは根本的に同じだと思うんです。手足がうまくいかない状態が大きければ『障害』って言われるし、アスリートが思ったように手足を動かせない状態は『不調』って言われる。ということは、目指すところは一般人でもトップアスリートでも同じだなと」

社会人時代の後輩であった元オリックスの後藤選手を指導する中で、松尾さんは、あのイチロー選手ともトレーニングをしたことがあるそうだ。もともと体が硬かったイチロー選手は、初動負荷トレーニングを積むことによって、ストレッチでは床に体がべったり張り付くほどになったと言う。それでも、それ以来、イチロー選手の動きを観察し続けてきた松尾さんに目には、近年のイチロー選手からは年齢のせいか、「しなやかさ」がなくなっているように見える。

「要は、筋力がある、柔軟性がある、じゃなくて、体がつながってきて初めて動くようになるってことなんです。そうすれば、腰痛なんかの故障もなくなるし、今ある力を生かして最大限のパフォーマンスができるようになるんです。そこからまた、そのつながった状態でパワーをつけていくことが大切だと私は考えます」

松尾さんの夢は、自身が独自に編み出したこのMatsuo methodを次の世代に伝えていくことだ。そうすれば、あらゆるレベルのアスリートが、一流選手のフィーリングを理解できるようになり、自身のパフォーマンスアップにつながる。その思いを胸に松尾さんは、今日も奔走している。

取材&文&撮影・阿佐智

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