【スポーツとケガ】元”天才”サッカー選手 財前宣之に聞く④

前十字靭帯という度重なる大ケガにも負けず、35歳で現役を引退するまで第一線でサッカーをプレーし続けた財前。17年に渡るキャリアを全うした彼は、どのようなリハビリ生活を経て、見事なケガからの復活を遂げたのだろうか。

ケガをした選手でさえ、前十字靭帯断裂というケガの本当の恐ろしさは分からないのではないかと思います

前十字靭帯とは大腿骨(腿)と脛骨(脛)をつなぐひも状の腱のことである。前十字靱帯の周辺は非常に血液の循環が鈍く、切れた腱が自然に回復することは不可能に等しい。外科手術による再建が必要になってくるのはそのためである。

再建とは、自身の体の別の腱を膝に移植することで靱帯の機能回復を図る方法である。これを自家腱移植と呼び、この方法での手術は大きくハムストリングス腱を用いる二重束再建術と長方形骨付き膝蓋腱を用いる再建術の2つに大別される。

スポーツ競技を行えるように回復するためには、再建手術は必須といってよく、多くのアスリートが手術を選択する理由がここにある。

よって、復帰を目指すうえでは、ドクターとトレーナーとのコミュニケーションは非常に重要な意味を持つ。

――ドクターとはどんな会話をしていたんですか?

財前 自分はドクターには非常に恵まれました。「3回目のケガだけど、本当に腱を取るところはあるの?」とか冗談で聞くと、「あと2回は大丈夫だよ。まだ使えそうな腱が残ってるから」と明るく言ってくれるようなドクターだったので。「まだ手術できる」とドクターが言ってくれるのであれば、復帰を目指す以上はその言葉を信じることにしました。

――トレーナーとはどんなやりとりを?

財前 トレーナーにもとても恵まれましたね。ドクターがゴーサインを出した以上、トレーナーは大丈夫だというしかないですから。「こういうトレーニングをして、筋肉を倍の太さにして貯金をつくっておけば、腱に負担がかからないから大丈夫」などと、非常に具体的に助言をしてくれました。

――二人三脚でトレーニングをしていくんですか?

財前 はい、鏡の前に立って、「腿一回り太くなったな、二回り太くなったな」と言いながら、意識的に自信を持てるようにしてくれました。そういう言葉がけは、気持ちを保つうえでとても助かりました。

――自信が、ケガの回復を促していくんですね。

財前 そうです。例えば、筋トレを少しでもやらないと、筋力が落ちた気がしてしまいます。なので試合前に腹筋をしたり、軽く筋トレをしたりして筋肉を張らすと、脳が「できる」と自信を持つようになると思います。アスリートの方でも、よくそうする人がいますけど、張らすことが医学的に正しいのかは分からないですが、そういう細かいことは大事にしていました。

――試合前にやってしまって、疲れてしまわないんですか?

財前 そういうふうに言われる方もいますけど、自分の場合は張らすことで恐怖感が低減されることの方が大きかったですね。

――復帰をしてからも、ケガの恐れというのはあったと思うんですが、そういったものはどのように克服していくのでしょうか?

財前 何回か大怪我をして、自分の体のバランスが大きく崩れました。なのでケガとうまく付き合うじゃないですけど、プレースタイルを変えたりとか、そういう努力はしました。例えばドリブルで積極的に狙っていくよりは、球離れを早くしようとか。ケガをしたことによって絶対にどこか別の体の部位に負担がかかるので、現状の自分を知るっていうのが凄く大事なんじゃないかなと感じています。

――自分を知るというのは?

財前 膝をケガしたことで、ハムストリングに影響してくるとか、体のバランスをトータルに配慮することですね。大ケガをすれば必ず体のどこか別の場所に負担がかかります。なので痛みとかはないんですけど、こういう動きをしたら危ないなっていうのを、なんとなく感覚的に理解していきながらケアをしていくというのが大事だと思います。

――最後に、前十字靱帯をケガした人に伝えられることがあるとしたら何でしょうか?

財前 おそらく世界共通で、ケガをしてしまった人にしか復帰までの大変さや、体がどういうふうに変化するのかということは分からないと思います。ケガをした選手でさえ、どれだけきつい練習をして、どれだけトレーニングをやればいいのかということは分からないのではないのではないでしょうか。

なので、もし前十字靭帯を切った人に伝えるとしたら、リハビリをしてやりすぎということはないし、どれだけトレーニングをしても、もう1回ケガをしてしまうかもしれない、選手生命が終わってしまうかもしれない非常に怖いケガなんだ、ということを伝えたいですね。

――ちなみに今の膝の状態はいかがですか?

財前 普通にやれていますよ。スクールでもボールを蹴りながら教えていますから。

一筋縄ではいかない現役生活を送ったからこそ、指導者として伝えられることがたくさんあるはずだ。諦めずに復活を目指し、そして見事にカムバックを果たしたからこそ、その言葉には重みが増すはずだ。彼は東北の地に自ら開校したスクールで、その数奇な選手生活のなかで培ってきたさまざまな思いを、今日も伝える。

財前宣之(ざいぜん・のぶゆき)
1976年、北海道出身。元プロサッカー選手。U17ワールドカップではベストイレブンに選出されるなど、若くしてその才能を開花させる。現役時代はベガルタ仙台、モンテディオ山形などで活躍。その後タイに渡り、1年間活躍したのち、現役を退く。引退後はベガルタ仙台の育成部で子供たちを指導。2016年4月には、自らが主宰する『財前フットボールスクール』を開設する。
財前宣之フットボールスクールHP

取材・文/須崎竜太 写真/山中順子