【鉄人アスリート】原英晃④~トレーニング動画公開!~




スポーツ界の鉄人を紹介していくこのコーナー。“鉄人スイマー”原英晃さんのインタビューもいよいよ最終回。子どもたちの指導への思い、そして自らが泳ぎ続けるモチベーションについてのお話をお届けする。

好きだから泳ぎ続けている
好きなことを辞める必要はない

――2013年にこのヴィンチトーレを設立したとのことですが、どういったコンセプトで作られたのでしょうか?

原:まずは自分が長い競技人生の中で培ってきたもの、経験してきたことを伝えていきたいなというのがありました。実は私は小学生のとき、全国大会出場は夢のまた夢で、箸にも棒にもかからない選手でした。

――そうだったのですか!?

原:日本代表になるような選手は、その多くがジュニア時代から速くて、全国大会は常連、決勝に残るのが当たり前で、全国中学、インターハイで表彰台……という感じですけど、私は初めて全国大会に出たのが中学3年生のときです。そのときも、標準記録を僅かに切って、奇跡的に出ることができた感じでした。実質的に全国で勝負したとなると、高校3年生のときなんです。自分がそういう選手だったので、多くのジュニアスイマーたちに伝えられることがあるんじゃないかと考えています。いい結果が出ないと途中で諦めてしまったり、辞めてしまう子も少なくないと思うんですが、そういう選手たちに、諦めずに賢く努力を続けていくことで、可能性が広がっていくよって。泳ぎのテクニックだけでなく、練習への取り組み方、気持ちの変化や飛躍のキッカケを与えられたらと思っています。

――そういう思いで子どもたちの指導をしているのですね。

原:そうした次世代の育成をしたいという思いがまず一つです。あとは長く競技を続けてきていますけど、私が20代後半から30代前半の頃って、その年代まで競技を続けている人が少なくて、「いつまでやってるの?」というような、ちょっと冷たい視線や雰囲気を感じることもありました。でも、30代中盤以降は逆に応援してくれる方が、日本代表の頃よりも多くなった気がしてるんです(笑)。私がチャレンジすることによって、同年代や年上の方たちから「勇気をもらってます」とか、そういう温かい言葉をいただけるようになったんですよ。だから自分が続けているところを見せる、やってきたことを伝えることで、いい影響を与えられるのであったら嬉しいですよね。

――それが今も泳ぎ続けるモチベーションですか。

原:もちろんそれもありますけど、とにかく水泳が好きなんですよ。だから指導をしながらでも、自分がプレイヤーとしていろいろなものを取り入れてやっている。新しい情報が入ってきたときに、それを教えるだけじゃなくて自分でやってみてどうなるかというのを知りたい。自分が実験台というか、とにかく自分で試したいという欲求は常にあります。

――まだまだチャレンジは続けていくのですね。

原:よく「いつまで続けるの?」って質問されるんですけど、好きだから続けているので、いつまでって答えられないですよね。別に好きなことをやめる必要はないじゃないですか。今の私にとって、トレーニングしてレースに出ることは趣味みたいなものなので、早朝からゴルフやサーフィンをする方々と同じ感覚なんだと思いますよ(笑)。

――水泳が一番楽しいと思える瞬間ってどんなときですか?

原:やっぱり高いパフォーマンスができたときは楽しいというか、嬉しいですよね。それはずっと変わらないと思います。だからといってそれができなかったから嫌になるかと言ったらそれも違って、うまくいかないときも「水泳って奥が深いなぁ」なんて思って、そのあとのトレーニングを楽しんでいるかもしれないです。いいタイムで泳げないと悔しいですけど、それを原動力にして「次こそは」と闘志を燃やしながらトレーニングする自分に酔っているのかもしれません(笑)。

――良くても悪くても楽しめるというのはいいですね。

原:でも競技支援をしてもらっていたときは違いましたよね。結果を出さないといけないという使命感もあり、プレッシャーを感じながらやっていたと思います。でも、それがなくなってからは全部自分のためにやっているので、楽しめるようになったというのもあると思います。競技中心の生活ができることはとても幸せなことでしたし、楽しんでやっていた部分もあったんですけど、楽しむ質が変わったというか。今が一番水泳を楽しんでいるかもしれないです。

――原さんが今後やってみたいことや夢ってありますか?

原:自分が体を壊してからやってきた過程では、必ず体づくりというのがベースにあったので、泳ぎだけではなくてそういうものを伝えていきたいですよね。このスタジオをオープンしたことも、その思いを一つ形にしたものです。水泳をやっているとかやっていないにかかわらず、体づくりは健康でいるために必要なことですし、健康であれば何事にも前向きにチャレンジできると思いますからね。ただ、私一人ではできることが限られているので、ご縁のある方々と力を合わせて、多くのスイマーの役に立つような面白い取り組みができたらいいなと考えています。あとは、還暦を迎えても今と同じスピードで泳いでいたいですね(笑)。

取材&文・佐久間一彦/撮影・中田有香

原英晃(はら・ひであき)
1974年生まれ。静岡県出身。日本体育協会認定水泳上級コーチ、NESTA認定パーソナルフィットネストレーナー、一般社団法人スポーツ人材育成協会理事。元200m自由形日本記録保持者及び元400m・800mリレー日本記録メンバー。1998年アジア大会金メダルや2001年福岡世界選手権ファイナリストなど、国内主要大会のみならず、国際大会の経験も豊富。1993~2015年まで23年連続で日本選手権(2011年代表選考会を加算)に出場するなど、40歳を過ぎた現在でも未だ日本の第一線で活躍中の鉄人スイマー。
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