真の達人は常識の外にいる――。ムキムキボディの天才研究者 光吉俊二さん③【髙田一也のマッスルラウンジ 第47回】

大好評「マッスルラウンジ」。今回はロボット「Pepper」の感情エンジンを開発した光吉俊二さんが登場! 音声による感情認識を専門に、工学、医学、心理学にも精通している他、彫刻家、空手家としての顔も持つ光吉さん。3回目は、年齢や健康の大切さについて語り合いました。

「何かを極めた経験を持っていれば、他もうまくいく」(髙田)
「トレーニングには『捨てる』という効果があるのかも」(光吉)

髙田:僕は30代後半くらいの自分がピークですごくいい時期だという実感がありましたので、きっと40とか50、60となっていくと、緩やかに落ちていくものだろうと思っていたんです。でも今48になって、そうではないことがわかってしまって。

光吉:老化しないことがわかるんですよ。ある段階を超えるともう抜けるんですよ。髪の毛も抜けましたけどね。

髙田:いやいやいや(笑)。でも似合っていらっしゃいますよね。僕は逆に怖いんですよ。いつやってくるのかという不安があって。自分にスキンヘッドが似合うのかどうか。

光吉:顔つきが大丈夫ですから。ザ・ロックみたいになりますよ。

髙田:僕のまわりも何人かいるんですけど、本当にみなさん似合っているんです。

光吉:楽ですよ。雨が降ったってツルっと拭けちゃうし。

髙田:洋服もそうですけど、毎日髪型を選ぶ時間がムダだなと感じることがあるんです。

光吉:面倒くさいですよね。だから僕はタンクトップしか持っていないですもん。4種類がだいたい100着ずつあって、冬は裏起毛のタンクトップを着るんですよ。

髙田:じつは今日着てきたのがお揃いになってしまって(笑)。

光吉:マジ?

髙田さんが上着を脱いでタンクトップ姿へ

光吉:ハハハハ。色合いが同じじゃないですか(笑)。さすが、やっぱりすごい体ですね。空手って4試合くらいのトーナメントだから、一日20ラウンドくらい闘うんですよ。昇段試験はもっと厳しくて、初段は10人組手、五段だから50人組手。休みなしで50人連続で倒さなければいけないんです。そこで必要になるのは、体の持久力なんですよね。つくり込むためには筋トレをやった後にやわらかくしていって、また筋トレをして積層していくんです。それでショックを受けても大丈夫な体をつくると。それをやれる人って武道家の中でもほとんどいないんですよね。

髙田:気持ちの強さも必要ですよね。

光吉:体が弱くなると何もかもダメになるということが、体を壊してからよくわかりました。

髙田:何かの大きなきっかけで、自分の視点がガラッと変わることって人生であるじゃないですか。そういう経験をしたかしないかで人生の豊かさというか、視野の広がり方は全然違うと思います。不幸を盾にすることは簡単なんですけど、それをプラスに変えていくのはすごくいい作業だなと最近思うんです。やるかやらないかだけですし、やろうと思えば絶対できるじゃないですか。恵まれて生まれてくる人もいればそうでない人もいるので平等ではないかもしれないですけど、そんなことは関係なく、どう乗り越えるかだけなのかなという。ウエイトトレーニングを教えていても、その人にそれが必要なのかをすごく考えるようになったんですよね。でも、今日であったり、このサイトで何度も対談をさせていただいた結論としては、やっぱりウエイトトレーニングはすごく必要だと思います。

光吉:本当に大事だと思います。今は当たり前になっていますけど、昔はそんなことはなかったんです。格闘家はウエイトをやるなと言われたんですよ。

髙田:野球選手もそうでしたね。

光吉:極真はぶち込み合いなので、昔から勧められていましたけどね。前にチベットの高僧の方と議論をした時に、世の中からすべての悪を滅ぼしたら、善から悪が出てくる。ひとりの中に善と悪があるんだ。善と悪は存在していて否定できないものだ。それを丸ごと受け止めて物を見なければいけないと言われたんです。これは武道にも通じていて、大山倍達先生いわく地上最強、一撃必殺。必殺ということは、他の人は死んでいるんですよ。誰かひとりしかダメじゃん。生きる価値ってひとりしかないじゃんという話になるじゃないですか。結局、勝ち負けではなく、あきらめるなということなんだなと。あきらめなければ負けていないということじゃないですか。体も同じですよね。呼吸を止めたら死ぬので。医学部に入ってわかったんですけど、どんなに頭のいい方でも立派な人格者でも、体が終わったら終わります。いつか必ず死ぬという誰もが平等な条件下で、どう生きるかは自分が決定権を持っているんです。それを若い人に伝えたいですよね。体を鍛えたりとか、やり方は千差万別ですけど、そういう自由があって、自分で選んで自分でデザインできる。こんなに楽しいことはないよと若いうちから分かれば、我々よりもっといい人生を歩めますよ。それをわかってほしくて言うんですけど、「このオヤジ、新橋に行って話せよ」みたいな反応なんですよね(笑)。

髙田:世代間のギャップは難しいですよね。でも、最近はすごく視野の広い若者も増えてきているみたいですね。

光吉:若者は進化していますよね。あんなに頭よくなかったもん。

髙田:僕も話をしていて、この年齢の時にこんなこと言えたかなと思うことがあります。

光吉:東大でも平成生まれはすごく優秀なんですよ。自由でバンバンいくんですよね。

髙田:我々が若い頃と違っていろいろな情報が入りやすい環境ですし、それを頭の中で処理することに長けているのかなと。

光吉:我々の頃は条件が決まっているから頭が固いんですよね。逆に強いんですよ。突き抜けるから。だけど、突き抜けてからどうするんだという問題があるので、9割方変な突き抜け方をすると。当たるのはその中の1割か2割くらいのものですからね。

髙田:だから今の若い世代は、もしかしたらすごい可能性を持った人たちなのかなと。あとはそこに健康の概念を持ってくれれば。

光吉:そこは世代関係なくそうなんですよ。やっぱり健康なんです。ブッダも最後は修行をするよりミルクを飲んで体をもとに戻さなきゃと思ったわけです。それで重力のもとに生まれてきたんだと真の悟りを得た。空海もそうですけど、肉体を持って欲を持っているんだと。食欲がなかったら死ぬわけですから。性欲がなかったら子孫が残らないですから。それを受け止めなさいというのは同じことを言っていると思うんですよ。これは体を壊した人間、乗り越えた人間でなければわからないですよね。

髙田:今は60歳でもすごい体をしたボディビルダーの方がいるんですよ。どんどんトレーニングがおもしろくなって入り込んでいくんですよね。まわりから見たら十分すごい体だと言われても、自分では違ったりするじゃないですか。ああいった経験はすごくいいんじゃないかなと思います。何でもいいと思うんですけどね。自分の中で、何かひとつのものを極めたという経験。それを持っていれば、他のこともうまくいくような気がしますし。

光吉:歳を取ってからのウエイトトレーニングはいいと思いますよ。自分でやってよくわかりました。

髙田:免疫力も上がりますからね。病気にかかりにくくなりますし、かかってしまったとしても治りやすいですし。ウエイトをやっていることによって、食生活もすごく考えるじゃないですか。何かひとつのことをやっていくと、そこに付随していろいろな考えが派生していって、それが結果的にいいことにつながっているみたいな。

光吉:そういうことですね。ヨガとサーフィンとボディビルって似ていて、どれも悟りの世界に入れるんです。たぶん、自分の中のインナースペースに入っていくんですね。サーフィンってアメリカでは瞑想系のスポーツと言われていますからね。トレーニングと似ているんですよ。

髙田:たくさんのシャークがはびこる中、しかも彼らはすごい波を求めるじゃないですか。僕のクライアントさんの中にもサーファーの方がいらっしゃって、それなりの地位だったりするんですけど、すごい危険に臨んでいくんです。もしものことがあったら会社も大変な状況になってしまう中で、それでもその人の何かを保っているのはそこなんだなと。そういうものを人生の中で見つけられたのは大きなことですよね。

光吉:僕はトレーニング中はまったくの無になるんです。2時間くらい平気で経ちますからね。一度無になることは発想をする上でもいいのかもしれないですね。

髙田:なかなかああいうリセットの仕方ってできないですよね。男はとくに重いものを挙げることでストレス発散にもなると思いますし。

光吉:コップの中のミルクが腐ったら捨てるじゃないですか。それで新しいミルクを入れる。トレーニングにも捨てるという効果があるのかもしれないですね。リセット。その言葉が一番ピッタリですよね。

取材&構成&撮影・編集部

髙田一也(たかだ・かずや)
1970年、東京都出身。新宿御苑のパーソナルトレーニングジム「TREGIS(トレジス)」代表。華奢な体を改善するため、1995年よりウエイトトレーニングを開始。2003年からはパーソナルトレーナーとしての活動をスタートさせ、同時にボディビル大会にも出場。3度の優勝を果たす。09年以降はパーソナルトレーナーとしての活動に専念し、11年に「TREGIS」を設立。自らのカラダを磨き上げてきた経験とノウハウを活かし、これまでに多数のタレントやモデル、ダンサー、医師、薬剤師、格闘家、エアロインストラクター、会社経営者など1000名超を指導。その確かな指導法は雑誌やテレビなどのメディアにも取り上げられる。
TREGIS 公式HP
光吉俊二(みつよし・しゅんじ)
1965年、北海道出身。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座・特任准教授。専門は、音声感情認識技術、音声病態分析技術、人工自我技術。彫刻・建築家としてJR羽犬塚駅前彫刻や法務省の赤レンガ庁舎の設計などをしてきたが、独学でCG・コンピューターサイエンス・数学を学び、1999年「音声感情認識技術ST」を開発し特許取得後、任天堂DSソフトやロボット「Pepper」などでも採用される。その後、工学博士号を取得し、スタンフォード大学・慶應大学・東京大学で研究する。極真館(フルコンタクト空手五段)役員、征武道格闘空手 師範。著書に「STがITを超える」日経BP(絶版)、「パートナーロボット資料集成」エヌ・ティー・エス、ウィルフレッド・R・ビオン「グループ・アプローチ」亀田ブックセンター、社団法人日本機械学会「感覚・感情とロボット」第二部21章 工業調査会、「進化するヒトと機械の音声コミュニケーション」エヌ・ティー・エスなど。