泉風雅【静かなる闘志の行方①】2017年全日本学生ボディビル選手権大会優勝者




10月21日(日)に開催される全日本学生ボディビル選手権大会まで、いよいよ残り1ヵ月をきった。日に日に注目度が増す中、本サイトではディフェンディングチャンピオン泉風雅選手にインタビュー。

泉風雅は、1962年の設立以来、日本のボディビルの歴史を共に築いてきた早稲田大学の「早大バーベルクラブ」に所属している3年生の選手だ。昨年の全日本学生ボディビル選手権大会では、強烈なインパクトと迫力で他の選手たちを圧倒し、見事初優勝を遂げた。
しかし、今年の大会で連覇を狙う王者から聞こえたのは、意外な言葉だった。

「相澤隼人選手は僕より格上です。次元が違いますから」

相澤隼人とは、昨年の全日本高校ボディビル選手権大会で3連覇を達成し、全日本ジュニアボディビル選手権大会も含めて2冠を達成した、ボディビル界の注目株だ。その1ヵ月後に行なわれた世界ジュニアボディビル選手権大会では、第5位という結果をおさめ、今大会でも大注目のビルダーの1人に名を連ねている。
そんなルーキー相澤の存在を、前回大会の王者は、純粋に尊敬しているようだった。

「同じ出場選手として、意識する、しないとかでなく、相澤選手は綺麗な体をしているので、単純にどう仕上げているのか楽しみなんです」

そう話す泉は、競技中のインパクトや、激しく歯を食いしばった表情から受ける印象とはまるっきり異なる、屈託のない笑みを見せてくれた。
普段の彼は、トレーニング中も、顔見知りのトレイニーたちと言葉を交わすような、人懐っこい性格の持ち主なのだ。

ウエイトトレーニングとの出合い
ボディビルとの出合い

泉がウエイトトレーニングに出会ったのは高校2年生の時。当時、硬式テニス部の部員として練習していたある日、肩を脱臼してしまい、手術を受けることになった。その時行なった術後のリハビリがきっかけで、トレーニングに興味を持ち始めたのだ。

「術後に肩のインナーマッスルを鍛えるようなトレーニングをリハビリ室でやっていたのですが、やり方が間違っていたんでしょうね。リハビリをすればするほど、インナーではなく、肩まわりの三角筋がみるみる肥大していきました(笑)。やればやった分だけ筋肉が肥大していくのがとても面白かったです。その時の出来事がきっかけで、トレーニングに興味を持つようになりました」

あっという間にウエイトトレーニングの持つ魅力にとりつかれていった当時高校生の泉は、独学で筋肉の勉強。それは進路にも影響を及ぼした。

「それまで医学部ヘの進学を目指していたのですが、それが本当にやりたいことなのか、周りに流されて目指しているだけなのではないのか、と疑問を感じていた部分がありました。そんな時に『ミスター早稲田』の動画を見たんですが、画面越しに伝わってくる、その場の熱気や活気がとてもかっこよく、受験本番は刻一刻と差し迫っていましたが、その動画を見て、『自分の好きなこと、やりたいことをやろう』と決意し、早稲田大学への進学を決めました。高校3年生の秋だったので、相当遅くなってしまいましたけど(笑)。もちろん目的は「早大バーベルクラブ」に所属して、『ミスター早稲田』に出場することでした」

山岸秀匡さんに英語で「3連覇」と書いてもらったトレーニングベルト

目標通り、早稲田大学スポーツ科学部に合格した泉は、学生ボディビルの世界に足を踏み入れることになった。
1年生だった2016年の1年間は体作りに没頭し、翌2017年に全日本学生ボディビル選手権大会に初出場。見事初優勝を達成した。

「昨年、全日本学生選手権大会が終わって、早大バーベルクラブのOB会の方々が、在籍生向けにセミナーを開いてくれました。その時OBでプロボディビルダーでもある山岸秀匡さんに、トレーニングベルトにサインと“(めざせ)3連覇”というメッセージを書いてもらいました。今日もそのトレーニングベルトを使っていたんですが、今年から相澤選手と同じ土俵で戦うので……(笑)」

朗らかな笑顔に潜む、静かなる闘志

温和な笑顔と気さくな語り口が印象的な泉だが、その背後には、芯の通った強い信念とボディビルにかける情熱がうかがえる。

「やりたくないことをやっている暇はないので、大学に入ってからは、NOといえる日本人でいることを心がけています。自分はあくまでトレーニングが好きで、それを楽しく続けていた先にボディビルがたまたまあったっていうことなので。あとは、アマチュアなので、楽しむことが最優先されるべきだとも思っています。もちろん競技として対戦する楽しみもありますが、相手を意識しすぎて、楽しめなくなってしまっては意味がないと思います」

すべての取材が終わろうとした最後の最後に、泉はこんなことを語ってくれた。

「自分は、バーベルクラブといえば“早稲田”だと思っています。最近は、日体大のバーベルクラブも有名ですが、「早大バーベルクラブ」としての誇りは持っているつもりです。ですので長い年月をかけて蓄積された伝統と、数々の実績を残されているOBの皆さんの名に恥じないように、そこはプライドをしっかりと持って、競技に臨みたいと思っています」

1ヵ月後に控えた全日本学生ボディビル選手権大会を前に、泉に邪念はなく、“前回王者”という肩書に気負うこともない。それは、何よりも自分が楽しいと思うことを最優先してきた人間の強みなのかもしれない。

取材・文・撮影/須崎竜太