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インフルエンザの予防接種って受けたほうがいいの?【ドクター長谷のカンタン薬学 第1回】




風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、飲み方を間違えると大変!  この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。

Q.インフルエンザの予防接種って受けたほうがいいの?

(C)k_katelyn – stock.adobe.com

10月に入り、そろそろインフルエンザが気になる季節になってきました。厚生労働省の発表ではワクチンを接種してのインフルエンザの予防率は60パーセントと言われています。逆に言うと予防接種をしても40パーセントはかかるということ。予防接種をすればインフルエンザにかからないというわけではなく、ある程度はかかりますというのが、厚生労働省の見解です。つまり、インフルエンザの予防というよりは、重症化の予防というふうに考えたほうがいいかもしれません。とくにご高齢の方はインフルエンザにかかると重症化して、最悪の場合には亡くなるケースもあるので、予防接種をしておいたほうがいいでしょう。

インフルエンザは水鳥から始まるものです。大前提としてウイルスは種特異性があるため、普通は人間にかかるものは他の動物にはかかりません。もちろん、鳥にかかるものも人間にはかかりません。しかし、遺伝子が突然変異を起こすことで、鳥にかかるウイルスが人にもかかるという事態が起こります。鳥に対しての感染性を示すA型インフルエンザウイルスの人への感染を鳥インフルエンザと呼んでいます。基本的に人間には抗体がないため、ウイルスが体に入ってくると病気を発症してしまいます。ウイルスを防ぐ抗体をつくるためのものがワクチンなのです。あらかじめワクチンを接種して抗体をつくっておけば、インフルエンザを発症しても軽症で済むという考え方ができます。

ではワクチンはどのようにしてつくられるのか? 「H5N1型」あるいは「H7N9型」というような言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。HとNというのはウイルスの部位のことで、Hには1~16まであり、Nには1~9まであります。ウイルスはH○N○というように分類されています。現在のインフルエンザワクチンは、これまで流行したH1N1(Aソ連型)、H3N2(A香港型)と2種類のB型の計4種類のウイルス株に対するもので、今年はこういうものが流行るのではないかということを国が主導して予測したそれぞれのウイルス株の亜型に対してつくられます。

つくり方は有精卵にウイルスを感染させて、それを増やして取ってという作業を繰り返し、4種類のウイルスを混ぜたものをワクチンにします。つくるのには時間がかかるため、ワクチンはインフルエンザが流行る時期よりもだいぶ前につくり始めます。予測をもとにつくっていることもあって、必ずしもその年に流行る型と完全に一致するものをつくることはできません。そのため、予防接種をしても完全には防ぐことはできないのです。

インフルエンザの治療薬としてはタミフル、リレンザ、イナビルといった名前を聞いたことがある人もいるでしょう。これらはウイルスが細胞から離れないようにする薬です。感染してしまったウイルスが周りの細胞に広がるのを防ぎ、とどめておけば免疫ができてウイルスを退治して治るというものです。また、今年2月、前述の薬と異なるメカニズムでインフルエンザの増殖を抑える「ゾルフーザ」という薬が国の承認を受けました。この薬は、リレンザやイナビルのような吸入剤ではなく、経口による1回のみの服用で治療が完了するので利便性が高い上、経口薬であるタミフルより抗ウイルス効果が高いことが臨床試験で示されています。いずれにしても、発症して早い時期に薬を飲むことができれば、治りも早くなるので、インフルエンザかも?と思ったときはすぐに病院に行くようにしてください。

ここまでは簡単にインフルエンザのことを紹介してきましたが、実は少し気になるデータがあります。パンデミックを起こすインフルエンザにはある一定のサイクルが存在するのです。全世界で2000~4000万人が亡くなったと言われるスペイン風邪が猛威を振るったのが1918年~19年。それから約40年後の1957~58年に約200万人の命を奪ったアジア風邪が流行。その約10年後の1968~69年には香港風邪が流行り、約100万人が亡くなったと言われています。そして記憶に新しい2009年の新型インフルエンザでは、およそ2万人が命を落としました。

最初のスペイン風邪から40年後にアジア風邪、その10年後に香港風邪、その40年後に新型インフルエンザ。40年→10年→40年というサイクルで大きなインフルエンザが発生しているため、新型インフルエンザの流行から10年後の2019年、その前後あたりに、猛威を振るうようなインフルエンザが流行するのではないか?とも噂されています。

こうしたインフルエンザは突然何かが起こって拡大していくものであり、クリアな対処法がないため広がってしまいます。パンデミックを防ぐためには一人ひとりの予防がとても大事になります。風邪が流行りだしたらマスクをしたり、手洗いやうがいをしたりすること。あるいはアルコール消毒をするなどの予防をして、ウイルスを体に入れないようにすることが大事です。予防接種もそうですが、普段の生活からインフルエンザ予防をして、健康に過ごしましょう。

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長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社