沈みゆく南太平洋の楽園、ツバルのスポーツ事情 その3

南太平洋・ツバルのスポーツを紹介する第3回目。今回は、ツバル独自のスポーツを2つ紹介する。ツバルは長年のイギリス支配の影響で、国民のほとんどは敬虔なクリスチャンである。日曜ともなれば、人々は皆、教会のミサに参加し、隣人と平和と幸福を祈る。そして、午後になると、老若男女問わずスポーツにいそしむ。この日は、いつもの「遊び」とは違い、陸上の競技会や、各種スポーツの試合が行なわれる。

ツバル・クリケット

クリケットというスポーツは日本人にはほとんどなじみがないが、実は類似の競技、野球などよりよほど世界的には普及している。旧イギリス領諸国ではサッカーと並ぶ人気を誇る。ただ、いかんせん、正式なルールに則れば、試合終了まで数日かかるというスローさが、アンチをどうしても増やしてしまう。そこで近年は、イギリスやインド、オーストラリアでのプロリーグでも、数時間で終わるルールに変更し、集客に努めているが、その普及範囲の広さから、様々な場所で独自のルールが開発されている。ここツバルでも、独特の「ツバル・クリケット」が行なわれていた。

クリケットとはどんなスポーツかご存じない人も多いと思うので、ここでかいつまんで説明する。本来のルールでは、楕円形の芝生のグランドの真ん中にそれこそ滑走路のような土がむき出しになった(コンクリートでおおわれていることも多い)部分があり、ここでピッチャーとバッターとの勝負が行なわれる。ピッチャーは規定の線までは助走をつけてよく、野球とは違い、勢いをつけて、頭の真上からボールを投げおろす。というのは、ピッチャーの的は、バッターの後ろにあるウィケットと呼ばれる三本の柱で、これにボールが当たると攻守交替になるのだ。だから、投球が横に逸れないよう、真上から投げ下ろす。

バッターは、野球で言うと、ちょうどホームベースの後ろにある柱にボールが当たらないよう打ち返すのだ。ピッチャーは柱にボールが当たればいいので、バッターまでの間にボールがバウンドしても構わない。というより、打ち返しにくいよう、バッターの手前でバウンドさせることが多い。バッターはとにかくボールを打ち返すのが仕事で、その方向は180℃どこでも構わない。ボールを遠くに打ち返せば、ボールがピッチャーに返される間に、自陣地の柱と相手ピッチャーのところにある柱の間を何度も走って往復する。その数が得点となるのだ。

ツバルクリケット。通常は3本柱が立っているウィケットだが、ここでは1本だけだ

という大まかなルールは、ツバルでも同じなのだが、いくつかの点で違っている。まず、ピッチャーが投げるボールは遅い、ノーバウンドの球が多い。老若男女、誰でもが楽しめるようにという工夫だろう。それと、もう1点、ここではボールを打ったバッターが、ウィケットの間を走って往復することはない。基本、クリケットが行なわれるのは、滑走路の延長にある草っ原。おまけにスポーツシューズなどはいているプレーヤーはほとんどいない。みな普段と同じサンダルばきである。

この状態でデコボコのフィールドを走ってケガでもしたら大変だということだろう、フィールドの隅に長い竿をもった男がスタンバイしていて、ボールが打者によってはじき返されると、それがピッチャーのもとに戻ってくるまで、竿を左右に倒すのだ。これが打者がウィケット間を走る代わりとなり、例えば、左側の地面にあった竿の先が男の頭の上を経由して、右側の地面に着くと1点がカウントされるのだ。

ツバルクリケットで使用される長竿。ここではバッターがベース間を走る代わりにこの長竿を往復させる

伝統スポーツ、アヌ

クリケットが行なわれているスペースの隣では、見慣れぬスポーツが行なわれていた。見たところバレーボールのようだが、かなり違う。根本的な違いは、この競技ではボールを一度に2つ使うことにある。

このボール、大きさはハンドボールよりひと回り小さいくらい。ヤシの葉を編んでできているのだが、中には何か重りになるものが入っているのか、ズシリと重い。これを両チームの陣地から相手チームにサーブされるのだが、このサーブの仕方もバレーボールとは違い、両チームの陣地の最前方にいるプレーヤーからそのすぐ後ろにいるプレーヤーにトスされ、これがサーブされるのだ。

アヌ。左の女の子が持っているのがこの競技で使うボールだ

ボールの行き先は、もちろん相手陣地だが、両チームの間にネットなどは張られていない。両チームとも、50人ほどの受け手が6列ほどに並んでボールを待ち構え、飛んできたボールをこれまたバレーボールの要領で前へ前へとパスされていく。パスの回数制限はないようで、ボールの重さもあってか、ボールと手が接している時間も長い。一度両手でつかんでから手首をつかって跳ね上げる感じだ。そうして、相手側陣地まで戻せば、ポイントが付くようだ。途中で落としてしまうと、サーブした方のポイントとなる。逆に、サーブが敵陣の隊列から逸れてもポイントを取られる。これを両チーム同時に行うのでボールは2つ使用することになる。

アヌ競技の様子

なんでもこのスポーツの発祥の地は、離島のナヌマンガというところらしい。その由来がまたなんともグロテスクで、元は島の王様が死ぬと、その首をちょん切って頭を島民たちが海に向かってトスし合い、それを繰り返して王の頭部を清めたという儀式が原型だという。なんとも物騒な由来だが、現在ではそんな物騒さはどこかへ消え去り、勝負がすむと、敗者にはお決まりの罰ゲームが待っている。勝った方のメンバーからの「命令」で匍匐前進させられたり、男たちが女装の上、ダンスさせられたりするのを皆で見ながらノーサイドとなったプレーヤー一同が大笑いしてゲームは終了する。

とにかくツバルの人々はよく笑う。スポーツをしているときも、実に心から楽しんでいる。勝利至上主義に陥った先進国のそれではなく、南の楽園、ツバルにはスポーツの原点が残っているのだ。

取材&文&撮影・阿佐智