世界チャンピオンの育て方① 男子レスリング日本史上最年少世界王者を生んだ指導法に迫る

男子レスリング・フリースタイル65㎏級で初出場初優勝を飾った乙黒拓斗選手が、小学生時代に4年間レスリングを学んだのがゴールドキッズ。同クラブは男女ともに年代ごとの世界チャンピオンを生み出している。世界チャンピオンを育てる秘訣はどこにあるのか? 練習の様子をのぞかせてもらい、自身が元女子世界王者でもある成國晶子代表に話を聞いた。

 

乙黒拓斗は目立つような子ではなかった

スピードと瞬発力はありました

今年10月ハンガリー・ブタペストで開催されたレスリング世界選手権にて、乙黒拓斗(山梨学院大、フリースタイル65キロ級)が初出場初優勝を飾った。19歳10カ月での世界制覇は、1974年の高田裕司(1976年モントリオールオリンピック金メダリスト、公益財団法人日本レスリング協会専務理事、山梨学院大監督)の20歳6カ月を超える日本男子史上最年少記録だ。

快挙を達成し、一躍東京2020オリンピック期待の星となった乙黒が小学校4年間、レスリングを学んだレスリングクラブ「ゴールドキッズ」は、全国レベルの大会で延べ100個以上のメダルを獲得。今回の乙黒の世界選手権優勝によって、シニア、ジュニア、カデットとすべてのカテゴリーの世界選手権で男女ともにチャンピオンを送り出したことになる。そんな強豪クラブで乙黒はいかに育ったか? また、日本最強を誇るゴールドキッズは子どもたちをどのように指導しているのか? 創立者であり、いまも現場で子どもたちを指導している成國晶子代表に話をうかがった。

自身も元世界王者である成國代表

女子レスリングがスタートした1980年代から90年代に活躍。日本女子レスリングの黎明期を支え、90年、91年には世界チャンピオンに輝いた成國晶子(旧姓・飯島)が引退後、高田道場コーチを経て、15年前に「自分ができることでレスリングに恩返しがしたい」とゴールドキッズを設立。乙黒が入部してきたのは、全国少年少女レスリング大会で毎年10名以上のチャンピオンを出すようになった5年目だった。

「高校までレスリングをやっていたお父さんが子どもたちに自分の夢を託したんでしょうね。地元・山梨のジュニアクラブに入れ、自宅にもマットを敷いて打ち込みなんかさせていたそうです。たまたま名古屋のほうで行なわれた合同練習でうちの子たちを見て、そのお父さんが『いい練習をしている。練習相手も大勢いる』ということで、最初は月1回ぐらい拓斗とお兄ちゃんの圭祐(山梨学院大、今回の世界選手権フリースタイル70キロ級出場)をうちの練習に連れてくるようになったんです。

少しすると毎週金曜日、学校が終わると兄弟二人で山梨から新宿まで高速バスで来て、夕方の練習に参加。土曜日は午前午後2回練習して、日曜日に午前練習をすると両親が迎えにきて帰る。その間は成國家に泊まって。そんな感じで拓斗は小学校3年生から6年生までやっていました。レスリング経験のないお母さんは余計な口出しをせず、常に『頑張ってね』。お父さんは黙っていられないんでしょう。自分から技を仕掛けなかったりしたら、練習でも試合でも怒鳴りつけていました。

性格はおとなしいというか、落ち着いていて。みんなから『拓斗じいちゃん』なんて呼ばれていましたね。キャピキャピとは全然違って、みんなで騒ぐこともなかったですから。それでも、ストイックに一人黙々と練習するというわけでもなく、私の息子(大志、現・青山学院大)や娘(琴音、現・慶応義塾大)もいたので、練習でも家でも楽しそうでしたよ。うちのクラブはとにかく試合にたくさん出ようと全国を駆け回っていますし、あの頃もそうでしたから、ほかの子たちとも“同じ釜”の仲じゃないですけど仲が良かったです。特に目立つような子ではなかったですけど、スピードと瞬発力はありました」

小学生から高校生までが一緒に練習をしている

ゴールドキッズでは入部時、子どもに目標を言わせている。代表である成國をはじめ、オリンピックや世界大会で活躍するメダリストたちに憧れてレスリングを始めようという子たちだから、目標はもちろん「日本一」や「オリンピック金メダル」。乙黒自身も「チャンピオンになるために」山梨から東京まで通ってきていた。成國は子どもたちにその目標をしっかり、自分の言葉で言わせることによって、より明確に意識させる。そして、何度も問いただす。

意識の高い子どもたちが集まり、同じ目標に向かって、お互いに切磋琢磨しあっているため、練習中にふざけたり、ボーッとする子はいない……はずだが、そこはまだ幼い小学生だったり、イタズラ好きな中学生。ときには、練習に集中していないこともあるが、そんなときは成國がマンツーマンで話しかける。

「君は何をしにここに来ているの?」

「どうなりたいの? 目標は?」

「問題は時間の使い方です。『せっかく練習に来たのに、そんなことしていたら時間のムダだよ。もったいないよ』ということだけは、どんなに小さい子でも教えたい。『目標があるなら、それに向かってやれば』ということですよ。だから、『自分は勝てない。レスリングでチャンピオンになるより、他に目標がある』というなら、やめてもらえばいい。ここに来る必要はないじゃないですか」

時間の使い方を考えるようになった子どもが、「練習が終わって家に帰ると、ご飯を食べてすぐに寝ちゃうんだ。だから、宿題は練習前にやってきた」と言ってきたと、成國は嬉しそうに教えてくれた。

時間の使い方がうまくなれば集中力が増し、レスリングをがんばっていても勉強する時間が確保できる。文武両道の選手も多く、これまで慶応義塾大に6名進学したのをはじめ、早稲田大、法政大、青山学院大などへ進学し、レスリングで活躍している。

熱心な指導で子どもたちと一緒になって汗を流す

※つづく。

取材・文/宮崎俊哉 撮影/佐久間一彦

 

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