【My Training Life】Vol.07平松朋紀(プランニング・ディレクター/会社経営者)

アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、会社経営者として活躍しながら、異色の理由でトレーニングにハマる平松朋紀さん。彼にとってトレーニングの魅力とは一体どのようなところにあるのだろうか。

明瞭な発声とクルクル変わる表情で豊かな比喩を交えながら話し、豪快に笑う。平松朋紀さんの話し方は、プランニング・ディレクター・会社経営者として成功を収めた人のそれだった。特に筆者の心に残ったのが、「なるべくいい気分でいることに注力している」という言葉。小中をドイツで過ごした帰国子女で慶応ボーイという、そつのない経歴から育まれたものだろうと推察したが、意外にも幼い頃はコンプレックスの塊だったという。

「すごく太っていました。運動らしい運動もしたことがなくて。運動会での徒競走もいつもビリで、どの写真でも、自分の後ろには誰も写っていないんです(笑)」

「クラスで一番太った子どもだった」という幼稚園時代

転機が訪れたのは慶応高校入学時。空手部に入学したことだった。

「当時、映画『ベスト・キッド』が流行っていたんです。か弱い男の子が空手と出会って強くなるという話だったんですけど、それを見てかっこいいと思って」

気軽な気持ちで見学に訪れた平松さんに、次の日から過酷な稽古が待っていた。それまで運動経験が皆無だったため、腕立てやランニングなど基礎的な体力づくりもうまくこなすことができない。幸い友達には恵まれ、なんとか励まし合いながら続けることができた。そうして気づけばいつしか10キロ近く痩せていた。

「痩せたことを一番実感したのは“鉄棒”ですね。それまではぶら下がることもままならなかったのに、そのとき初めて逆上がりができたんです。感動でしたよ」

高校三年間で「太っている」というコンプレックスを解消した平松さんは、卒業後理工学部に進学。厳しかった空手部の反動で「絶対に遊んでやる」と決めてサークルを探していたが、入ったのは少林寺拳法部だった。

「入学したときはどこならバラ色の大学生活を送れるかって血眼で探していたのに、二週間くらいしたらもうどうしてもやりたくなって(笑)」

その頃から、研究熱心な性格が顔をのぞかせていた。一度物事にハマると、熱しやすく冷めにくい。そんな平松さんにとって、スピードと正確性が重要な少林寺の世界は奥深く、興味が尽きないものだった。大学の四年間は少林寺拳法に費やし、3年(二段の部)で全日本準優勝、4年(三段以上の部)では関東大会優勝を果たす。

大学4年時、少林寺拳法関東大会にて(左)

大学時代にはもう一つ、“ダイビング” にも夢中になった。それがきっかけで海洋生物学の世界に足を踏み入れ、コロンビア大学へ。帰国後、自然関係の映像会社に勤めた後、仕事仲間とともに起こしたのが、現在の会社だ。充実した日々を過ごす平松さんは、今年で50歳を迎える。トレーニングを本格的に始めたのは3年前のことだ。

「会社の移転に伴って、それまで行っていたキックボクシングに通えなくなってしまったんです。新しい会社のそばで、忙しくてもフレキシブルに通えるところを探していたときに見つけたのがゴールドジムで。でもジムに行くのは初めてで、まるで勝手がわかりませんでした」

トレーニングについて片っ端から調べるなか出会ったのが、Mark Rippetoeの「Starting Strength」だ。ウエイトリフターで筋トレ界のゴッドと呼ばれる著者は、一般人がトレーニングによっていかにベネフィットできるかに着目。ビッグスリーで鍛え、複合的に大きな力を出す中で体全体のストレングスをあげ、それにより足・腰・膝を正しく鍛えて晩年までQOLを維持しようと説く。

この本との出会いが、平松さんの研究心旺盛な性格に火をつけた。

「ちゃんとしたフォームで、大きな力を出せるようにしましょうっていう話なんですけど、これを読んでトレーニングすると『1センチこの持つ幅が違うとこういう風に違うのか』っていうことに気が付けて、面白いんですよ。『このフォームでちゃんとできた』っていうのが自分の満足ポイントです」

体型には興味がないと言い切り、トレーニングの目的を尋ねられると「強くなるため」と答える。

「こんなにハマるとは夢にも思わなかったんですけど、本当に面白いです。メカニズムを理解して、体を正しく使って本来の力を出す。少林寺に繋がるものがあるかもしれませんね。だからなるべく重い重量を自分の納得いくフォームで5回3セット上げるのが、僕のいまのゴールです」


とどまることをしらない研究心とチャレンジ精神。他のトレーニーと一線を画す平松朋紀トレーニングライフは、まだ始まったばかりだ。

取材&文/安多香子 撮影/佐久間一彦 取材協力/ハピネス(大井町)

★VITUP! アンケート★

【はじめたきっかけ】
バーベルそのものをちゃんと始めたきっかけは、「Starting Strength」との出会い

【プラスになったこと】
身体が強くなったこと。それによりありとあらゆる動作が楽になったこと

【好きな種目と理由】
ビッグスリーとハイクリーン。それだけしか必要ないから

【モチベーションの保ち方】
正しいフォームで持ち上げる、ということ

【やる気が出た一言】
「でかくなることは強くなることの副作用にすぎない」(「Starting Strength」より)

【トレーニングに求めること】
ちゃんと身体を使って強くなること

【これからの目標】
長期的には、死ぬまでトレーニングを続けること。短期的には、いまの1.5倍くらい上げること