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「美ボディ」と「筋トレ」がリンクしはじめた。☆石井直方×中野ジェームズ修一☆SPECIAL TALK #2




パーソナルトレーナー業界も急速に発展している。ⓒalfa27‐stock.adobe.com

人間の“見る目”はAIにも負けない

中野:筋肉をつくること自体はそんなに難しいことではないですよね。適切な負荷を与えて、効果のある種目をやって、ある程度の頻度を保てば、70歳でも80歳でも筋肉はできる。だから、これからのトレーナーは正しい方法を教えるだけではダメで、クライアントにまた来てもらえるのか、ということがポイントだと思います。どんな大学を出ているか、どんな資格を持っているかということ以上に、人間性のほうが重要ですね。

石井:私たちも「完璧なトレーニング」ができるAIシステムの開発といった研究もしているんですよ。たとえばVRの中にインストラクターがいて、そのフォームを完全に真似れば効果が出るとかですね。ただ、そういうものができたらインストラクターはいらないんじゃないかと思われがちですけど、そうではないと思うんです。どうしてもジムに行けない人とか、家から出られない人はそれしかないかもしれませんけど、それですべてが済んでしまうというわけでは決してないと思いますね。

――AIもかなりのレベルには到達しそうですけど、体調やレベルに応じたベストな処方箋というのは難しいかもれしれませんね。

石井:ええ。それにAIから習うのと人から習うのでは、かなり本質的な違いがあると思うんですよね。「今日はすごくよくできました」と褒められるのも、AIと人では効力がまったく違うと思いますので(笑)。

中野:それはそうですね(笑)。ランニングシーンを撮影して動作解析してくれる会社があるんですけど、それを見て新しい情報を得られるかと言うと、自分の目で見たものをそう大きくは変わらないんですよ。逆に、そこに至るまでの4~5年間にどういう過程を踏んできたか、どういう苦労をして、どういうトレーニングをしてこうなってきたか、というのは機械にはわからない。そこから先の課題はわかるかもしれませんけど、アスリートとして残された時間の中でのベストを考えたら、新しいトレーニングを導入することがリスキーな場合もある。そういう微妙なサジ加減はAIにはできません。どんなに技術が進んでも、人間の見る目はそんなに負けていない、と現場にいて感じますね。

石井:それは大事なポイントですね。先進技術の計測によって数値化すると、目に見えなかったものが見えてくるんじゃないかと世の中の人は期待すると思います。でも、じつは人間の目って思っている以上に感度がいいというか繊細なんですよ。人の目で見えないものが、機械で測ったら見えてくるということはあまりない。逆に機械で測っても出てこないものが、人の目なら違いを見いだせるという事例はたくさんあります。

中野:人の目ってすごいですよね。ただ、最先端の技術を使わないと古いトレーナーと思われてしまうんですよ(笑)。それを使っているトレーナー、使っている施設がすごいと思われて、使わないと保守的だと思われたりする。

石井:たしかに膨大なデータを使うことで、そこから見えてくるものもあるとは思います。そういう点では機械の利用価値はあると思いますけど、微妙な動きの違いなどは、まだまだ目の肥えた人の判断のほうが検出できると思いますね。ですから、機械のいいところをうまく利用すればいいんじゃないかと思います。

<第3回に続く>

取材・構成/本島燈家
写真/神田勲

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP
中野ジェームズ修一(なかの・じぇーむず・しゅういち)
1971年、長野県出身。PTI認定プロフェッショナルフィジカルトレーナー。米国スポーツ医学会認定運動生理学士(ACSM/EP-C)。「理論的かつ結果を出すトレーナー」として、卓球の福原愛、テニスの伊達公子、バドミントンの藤井瑞希など多くのアスリートを指導。2014年からは青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとして活躍を続ける。技術責任者を務める東京・神楽坂の会員制パーソナルトレーニング施設『CLUB 100』は、「楽しく継続できる運動指導と高いホスピタリティ」が評価され、活況を呈している。主な著書に『医師に「運動しなさい」と言われたら最初に読む本』(日経BP社)、『世界一伸びるストレッチ』(サンマーク出版)、『青トレシリーズ』(徳間書店)などがある。