知識を得るのではなく、「人を整える」ことで
スポーツ業界への就職をサポートする
――まず、小村さんが今に至るまでを教えてください。
小村 今から20年くらい前に、スポーツメンタルトレーナーとしてキャリアをスタートさせました。当時はまだ“根性”の時代で「メンタルトレーニング」という言葉もまだ普及していなかった頃ですけど、プロ選手から高校球児までいろんな人を見ていました。その後、スポーツの世界はどんどん変わっていきましたよね。2002年にサッカー日韓ワールドカップがあり、2004年にプロ野球再編問題があり、その中で、スポーツでビジネスをするという風潮も高まっていきました。
――小村さんにはどのような変化が?
小村 トレーナーとしていろんな人と接する中で、その契約が終わった後でも引退した選手のセカンドキャリアの相談を受けたり、会社の立ち上げのお手伝いをしたりもしていました。また、プロ野球再編のときに、新設の楽天の職員募集に約8000人の応募があったと聞いて、そんなにスポーツで仕事をしたいというニーズがいるんだと。だったら、スポーツの仕事に特化した学校みたいなのがあってもいいんじゃないかと思いまして。
――それが、今の立場に携わるきっかけだったんですね。
小村 そこで、2006年に総合学園ヒューマンアカデミーに入って「スポーツマネジメント講座」というものを立ち上げました。スポーツを勉強するというところでは大学の体育学部などはありましたけど、主に教師を目指すようなところだったし、トレーナーを養成するところはあっても、スポーツの仕事をメインにしたところはあまりなかったと思います。
――「スポーツマネジメント講座」ではどんなことを?
小村 「講座」ですから、ビジネスとかマーケティングの基本知識だったり、スポーツ業界の方を招いて講義をしていただき、いろんな立場からスポーツの仕事を話してもらったりしています。ただ、もちろんそれは大切なことなんですけど、私としてはそれが目的ではなかったんです。
――というのは?
小村 一番は、就職してもらいたいんです。スポーツマネジメント講座って約半年の講座を受講しても何か資格を得られるわけじゃないし、就職してやっとその目的が一つ果たせるんだと思います。時代の流れの中で、大学にもスポーツビジネス学科みたいなのができたり、ヒューマンと同じような専門学校もたくさん出てきたりしました。スポーツを仕事にしたいという学生の願いが叶っているように見えますけど、実際のところ知識を学ぶだけで、それがなかなか就職に結びつかないことが多いんですね。要は、“出口がない”んです。
――それはスポーツ業界としての問題もあるのでしょうか?
小村 スポーツ業界というのは、中小企業が多くて新人を育成している余裕がないですし、大々的に求人を出さないことも多い。即戦力が求められることも多いですからね。
――そこで小村さんは具体的にどんな取り組みを?
小村 午前中は知識を得る授業を行い、午後に「小村ゼミ」と称して学生たちとマンツーマンで向き合うような時間を作って、それぞれがキャリアをどうやって構築していくかというのを一緒に考えながら、「人を整える」ということをしてきました。特に『何ができるのか』『なぜスポーツで仕事なのか』、そして『自分は何者なのか』です。
――メンタルトレーナーとしての経験を生かしているわけですね。
小村 もともとメンタルトレーナーというよりは教育者になりたかったこともありましたから。キャリアの中でスポーツ業界の中に広い人脈も作ることができていて、それが私自身の強みでもあります。
――そして、3年前に独立してNPOスポーツ業界おしごとラボ(通称:すごラボ)を立ち上げたわけですね。
小村 はい、2015年2月に立ち上げました。基本的には「小村ゼミ」でやっていたようなことをやっているわけですけどね。ただ、学校などとは違うこの空間で、スポーツ業界に就職したいと思っている子たちのサポートをしています。
※次回は小村氏のすごラボでの取り組みについて語ってもらいます。
NPO法人スポーツ業界おしごとラボ 理事長。一般社団法人ファンダシオン理事、スポーツジョブライセンス認定委員長。小村スポーツ職業紹介所 所長。スポーツメンタルトレーナーとして多くのアスリートをサポートし、2006年に総合学園ヒューマンアカデミー「スポーツマネジメント講座」を立ち上げる傍ら、数百名の方向性を確立する個人プロデューサーとして活動。人生のゴール設定と今やるべきミッションを明確にする「デュアルメイキング」構築者として多くの人をアドバイス、業界へ橋渡しをしている。
NPO法人スポーツ業界おしごとラボ HP→http://sgolab.or.jp/
聞き手・撮影/木村雄大