バイタル・ブックレビュー#3『おどろきの心理学』

カラダに響く、名著や新刊を紹介するバイタル・ブックレビュー。文字の力をエネルギーに変換して新たな刺激をチャージしよう!

『おどろきの心理学 人生を成功に導く「無意識を整える」技術』(妹尾武治著・光文社新書)

プロレスとサブカルLOVE! の心理学者が科学的な研究結果から導かれた人間の心理を、一般の人にも伝わりやすいように、面白く解説している。新しい研究結果もしっかり紹介されていて読み応えがある。

◯赤い服は本当にモテるのか?

◯合コン必勝法はなぜ失敗したのか?

◯かならず相手に好かれる方法

〇賢くなりたければ、脳を活性化させるな

〇血液型診断という亡霊

〇スポーツに「流れ」は存在するか?

〇人は無意識に支配されている

と、目次の一部を見るだけでも興味が湧くような、身近なトピックが選ばれている。心理学といっても様々な分野があるが、ここで扱うのは実験心理学ある。

これはある環境のもとに人間を置いて何らかの刺激を与え、どう反応(行動)するかを記録する学問で、世間でよく言われている説がたんなる思い込みだった、というのも心理実験によって明らかになる。

VITUP!はトレーニングやスポーツを中心に扱っているので、まず「賢くなりたければ、脳を活性化させるな」を紹介しよう。

「〇〇で脳を活性化させよう!」という表現を世間ではたくさん見る。ほとんどの人はそれが正しいと思い込んでいる。しかし、妹尾氏によれば「学習や技術の習得とは、脳をいかに活性化させないか」だと言う。

ここで被験者となるのは、サッカーのスーパースターであるネイマールだ。
足首をくるくると回した時に彼の脳がどのぐらい活発に活動しているかを、日本の学者が調べた。

比較対象となるのは、日本のプロサッカー選手、水泳選手、一般人である。すると、ネイマールの脳の活動が最も少ないことがわかった。

つまり、サッカーが上手い、体をコントロールすることが巧みな人ほど脳の活動が小さく、本当に必要な部分だけを効率的に活性化させているということだ。
最小限の消費エネルギーで、同じ技術をより簡単にこなせるのである。

ネイマールはサッカーの動作に関しては、脳の省エネ化をして高い技術をこなす。
車で省エネ運転をすれば走行距離が伸び、いろいろな場所に行けるようになるのと同じ理屈だ。

「脳を活性化が必要」というワンフレーズは非常に大雑把で、「脳を活性化させず、省エネ化を目指せ」と言い方とセットになってはじめて意味を持つ。だから一流選手が「脳を活性化させている」と断言するのは間違いということだ。

「 スポーツに『流れ』は存在するか?」の検証も面白い。

スポーツの試合では対戦するチーム双方に点を取りやすい流れと取られやすい流れがあると、ほとんどの人がなんとなく思っている。「危ない時間帯」に点を取られやすいのだ、と。

しかし、それは検証できないという。

人間には自分の思い込みを強めるようにデータを見るという心の傾向があり、これを「確証バイアス」という。

思い込みを強める結果に触れると、記憶に定着してしまう。逆にそうでなければ心に残らない。

しかし「危ない時間帯」が一般的に信じられているのはその方が楽しめるから、なのだろう。

たとえばサッカー解説の松木安太郎は「危ない時間帯ですよ!」「危ない時間帯でしたが、なんとかしのぎましたねー」とよく言うが、それに対してアナウンサーが「松木さん、それって本当に危ない時間帯だったんですか?」などとツッコミを入れたりしない。それでは感情的に楽しめないし、野暮だからである。
(でも、たまにはツッコんでほしいが)

心理学的な「確証バイアス」を分かった上で楽しむ。しかし、それを信じ切ってしまってはまずい、ということで警鐘を鳴らすのが「血液型診断という亡霊」だ。

「血液型診断は完全に嘘である」というデータが繰り返し出ているのに、信じている人はかなりの割合になる。占いレベルのライトな話題で済んでいるならいいが、ここでも「確証バイアス」が問題となる。

信じたいものを信じる、という心が働けば、「血液型診断は科学的に証明されない」と言う“正しさ”は通じない。だからといって、野放しにして置くと就職などの場面で深刻な差別につながりかねない、と妹尾氏は危機感を持っている。

「自分にも確証バイアスがある」「思い込みにとらわれているかもしない」と疑えることが、心理学の効用かもしれない。きっとその方が冷静になれて、気持ちも楽になれるだろう。

あとがき、で瀬尾氏は心理学をプロレス、脳科学を総合格闘技にたとえて、持論を展開している。実にアツい、プロレスファンの想いが詰まっている。これが書きたかったんだな、と伝わってくる。

文/押切伸一