【コラム】大学スポーツの未来③

5月16日に東京大学本郷キャンパスで開催されたシンポジウムに関する本連載。第3回目の今回は、主催者である東京大学スホーツ先端科学研究拠点の拠点長であり、本サイトの人気連載『VIVA筋肉!』の著者でもある「筋肉博士」石井直方による研究報告を取り上げる。

テーマは、「高/低酸素環境を利用した筋機能強化への新しい取り組み」。平たくは、「筋持久力の向上に高酸素環境でのトレーニングは効果的か?」という内容である。

酸素環境のコントロールと、それに伴う生理的反応自体については、1970年代から研究がなされてきたという。筋肉に厳しい環境でのトレーニングに関する研究である。加圧トレーニングやスロートレーニングなどは、そうした研究の産物だ。今日、酸素の薄い自然環境で行われる高地トレーニングや、人工的に作り出した「低酸素」室でのトレーニングなども、関連研究の範疇にある。

一方、高酸素環境下で高いパフォーマンスを発揮するトレーニングについては、研究がほとんど存在しないという。「高酸素」という用語自体は、怪我をしたスポーツ選手による高圧酸素カプセルの使用など、耳にする機会の多くなった専門用語の一つである。だが、環境設定が困難であることや、酸素毒の問題などもあり、研究は希少であるのが現状だ。

実験の手法は、高酸素環境下(酸素分圧30%)で被験者がプリーチャーカールを行い、どれだけ継続できるかを検証するというもの。プリーチャーカールは、両肘を前に出して上腕を専用の台に乗せ、バーベルを持った腕を、キリスト教徒のお祈りのようなポーズになるまで屈曲させて行う、上腕二頭筋のトレーニング。設定は30%1RM(Repetition Maximum)、つまり、1度だけ挙上できる重さの3割の強度である。

結果は「効果あり」。反復回数が増加し、高酸素環境が筋持久力に及ぼす急性効果が認められた。さらに、6週間のトレーニング効果でも、高酸素下でのトレーニングの方が、常酸素下でのトレーニングより大きな筋持久力向上効果が認められた。

ただし、その効果には、大きな個人差があるという。その1つが、ACTN3という遺伝子の多型、RR、RX、XXによる影響。RR型と呼ばれるタイプの遺伝子型を持つ人は、パワーに優れ、XX型は持久力優位の筋肉を持つとされている。今回の実験では、RR型を持ち、常酸素下で持続力のある人に、より大きな効果が認められることが示された。

設定条件の変更により、どのような結果が得られるのかも興味深い。違う筋肉ならどうなるか?筋肥大にも有効か? 当日の質疑応答では、高強度設定ならどうなるかという質問が投げかけられた。トレーニングの仕方やターゲットによって、高酸素環境がどのような影響をもたらすか、今後の研究の発展が期待される。

なお、今回のシンポジウムには、ラグビーのトップリーグならびに日本選手権の2年連続2冠を達成したサントリーサンゴリアス監督の沢木敬介とS&Cコーチの若井正樹、2015年W杯で日本代表の分析担当を務めた中島正太らが出席している。この分野の研究に対する、スポーツの現場の関心の高さを物語っていると言えよう。

取材・文/木村卓二