真の達人は常識の外にいる――。ムキムキボディの天才研究者 光吉俊二さん①【髙田一也のマッスルラウンジ 第45回】




大好評「マッスルラウンジ」。今回はロボット「Pepper」の感情エンジンを開発した光吉俊二さんが登場! 音声による感情認識を専門に、工学、医学、心理学にも精通している他、彫刻家、空手家としての顔も持つ光吉さん。少年時代の話や日本の教育をテーマに対談が始まりました。

「武士道は全部につながっている」(光吉)
「勉強が最大の武器だと思います」(髙田)

髙田:光吉先生は空手の師範でもあるんですよね。

光吉:そうですね。極真は五段で極真館という団体の役員をしています。指導に関しては、征武道格闘空手という空手中心の格闘技の道場を渋谷でやっています。金的以外は何でもありで、極真の黒帯とかボクサーとかキックボクサーが、いわゆる総合格闘技的なことをやりたい時に教えたりもしますね。

髙田:空手歴はどのくらいですか?

光吉:古いですね。6歳くらいからやっているので、もう呼吸をするのとほぼ同じ感覚なんです。でも、5、6年前に心筋梗塞をやってステントが入っているので、今はフルコンタクトができないんですよ。血液をサラサラにする薬を飲んでいるから、頭を打ってしまったら即死ですし。筋トレもあまり本気でやって血管が切れたらアウトなので。

髙田:怖いですね。

光吉:一時期はベンチプレスで240kgを挙げたんですよ。すごくないですか? 体重80kgで240kg挙げるの。でも、もしかしたら筋トレをやりすぎると血が止まらないかもしれないと思ったんです。それからはマックスでやるのはやめて、150kgとかで回数を挙げるトレーニングに変えました。指導があるので、現役選手に押されない程度のトレーニングはしています。うちは顔も素手で殴るので、それを捌く程度のトレーニングはしますね。

髙田:貫禄がありますから怖いでしょうね、教わるのも(笑)。

光吉:相当怖いみたいです。こっちはねぇ、パンダの赤ちゃんでも触るように優しくやっているのに。

髙田:ハハハハ。

光吉:あとは大学時代にボクシング部に入っていたり、キックをやっていたこともあります。若干、中国拳法もかじったんですけど、本格的にはやっていないですね。打撃系が多かったです。

髙田:へぇー。やっぱり男は必ず強さにあこがれますよね。

光吉:僕は子どもの頃から、とにかく強くなりたいというだけだったので。とくに殴り合いで負けたくないと。

髙田:光吉先生と僕は5歳違いですけど、昔は普通にケンカがありましたよね。

光吉:街を歩くのも大変でしたもんね。

髙田:僕は祖父がアメリカ人なんですけど。

光吉:どうりでハンサムだと思ったら。でも、いじめられますよね。

髙田:もうとんでもなかったんですよ。どこに行っても受け入れてもらえないみたいな。当時は細くて体も弱かったので、どうやって渡り合っていくかを考えて。なるべく舐められないようにしていたつもりだったんですけどね。

光吉:子どもにとって、学校の先生って熊みたいな存在じゃないですか。

髙田:怖かったですよね。

光吉:当時、熊を倒す人間ってウィリー・ウィリアムスくらいしかいなくて(笑)。これに対抗するには空手しかないだろうと。体格差があるから柔道なんて通じるわけがないので。

髙田:無茶苦茶な部分もありましたけど、僕はあの頃の教育は好きでしたよ。

光吉:僕も好きです。今の日本は韓国とか中国に根性で負けていると言われるじゃないですか。いやいや、社会システムが負けているんだよと思います。ケガとか多少のリスクがあっても、野性的で自由にさせていた時代のほうが強かったですよね。

髙田:そうですね。上がっていこうという気持ちも芽生えやすいと思いますし。先生たちが怖いことによって、秩序が守られていたところもありましたよね。今は大人がものを言えない空気になってしまっているので。

光吉:昔の人は怒る時もカラっとしていて、やられたほうも自分が悪いからやられているとわかるんです。今は人格否定とか、やり方が陰湿なんですよね。「バカヤロー!」というのがなくなってしまって。

髙田:その上さらにインターネットが入ってきますし。

光吉:文武両道という言葉がありますけど、本来は勉強も武に入るんです。文というのは和歌とか感性のほうで。今は勉強は武に含まず、文武理芸と言います。理というのは理屈、道理。芸というのはいわゆるたしなみ、所作とか。明治くらいまで、日本人はそういったものが揃っていて初めて一人前みたいなところがあったんですね。お金ばかりでなく、そういうものの価値を復活させたいなと思っています。日本人は武士道というものがベースにあって、それは全部につながっているんですよ。わかりやすく言うと、一昔前までアフリカ系の人たちの次に陸上のタイムが速かったのは日本人ですからね。白色系の人やアフリカ系の人よりも体格が劣っているのになんで2番なのかというと、バランスがいいんですよ。そのバランスは何からきているかというと、武士道とか文武両道、文武理芸というところ。狭い日本の中で、いろいろな人たちが調和を保って生きられるという知恵があるんです。アメリカはいろいろな人種が混ざって合衆国になっているので、中国と同じように生きるのが大変じゃないですか。競争の世界で。昔から弱肉強食ですから、結局は強い人だけが生き残って子孫を残しているんです。ということは、相当強くなるのは当たり前の話ですよね。ミックスドってそういう強さがあるんですよ。

髙田:うちの祖父は、ネイティブアメリカンとフランスのハーフなんです。

光吉:それは強力だなぁ。ジャン=クロード・ヴァン・ダムじゃないですか。

髙田:ただ、自分はいいところを受け継がなかったなと思っているんですけどね。本当に体が弱すぎたんです。4歳くらいで手術をした時に、この子は長生きしないとか言われていました。スポーツや格闘技に対して、かっこいいなというあこがれはありましたけど、自分にはまったく縁がない世界だったんです。生きていくために、社会を乗り越えていくためには何か武器を持たなければいけないと思うんですけど、先生がおっしゃられたように僕は絶対に勉強が最大の武器だと思うんですよ。

光吉:だから武なんですよ。でも、それ以前にまず健康でいなければいけないですよね。それがあって初めて勉強もできるので。

取材&構成&撮影・編集部

髙田一也(たかだ・かずや)
1970年、東京都出身。新宿御苑のパーソナルトレーニングジム「TREGIS(トレジス)」代表。華奢な体を改善するため、1995年よりウエイトトレーニングを開始。2003年からはパーソナルトレーナーとしての活動をスタートさせ、同時にボディビル大会にも出場。3度の優勝を果たす。09年以降はパーソナルトレーナーとしての活動に専念し、11年に「TREGIS」を設立。自らのカラダを磨き上げてきた経験とノウハウを活かし、これまでに多数のタレントやモデル、ダンサー、医師、薬剤師、格闘家、エアロインストラクター、会社経営者など1000名超を指導。その確かな指導法は雑誌やテレビなどのメディアにも取り上げられる。
TREGIS 公式HP
光吉俊二(みつよし・しゅんじ)
1965年、北海道出身。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 道徳感情数理工学講座・特任准教授。専門は、音声感情認識技術、音声病態分析技術、人工自我技術。彫刻・建築家としてJR羽犬塚駅前彫刻や法務省の赤レンガ庁舎の設計などをしてきたが、独学でCG・コンピューターサイエンス・数学を学び、1999年「音声感情認識技術ST」を開発し特許取得後、任天堂DSソフトやロボット「Pepper」などでも採用される。その後、工学博士号を取得し、スタンフォード大学・慶應大学・東京大学で研究する。極真館(フルコンタクト空手五段)役員、征武道格闘空手 師範。著書に「STがITを超える」日経BP(絶版)、「パートナーロボット資料集成」エヌ・ティー・エス、ウィルフレッド・R・ビオン「グループ・アプローチ」亀田ブックセンター、社団法人日本機械学会「感覚・感情とロボット」第二部21章 工業調査会、「進化するヒトと機械の音声コミュニケーション」エヌ・ティー・エスなど。