いずれ流行語大賞を獲得できるポテンシャルも?
――SNSなどを見ていると、「ボディビルのかけ声辞典」は好評のようですね。改めて、「かけ声」の面白さをもう少し聞かせてください。
上野:「かけ声」は、最高の褒め言葉なんですよね。そのレパートリーがどんどん広がってきています。例えば、以前は単純に「黒い」だったのが変化してきて、「チャバネゴキブリ!」とか(笑)。最高級の黒さに対する、最高のほめ言葉ですよね。
――(笑)。何かにたとえるのは、日本人らしさですね。
上野:腹筋の割れ具合を褒める「板チョコ」も定番ですけど、最近だと、「板チョコ“モナカ”」とか。「モナカ」がつくと、よりグレードが高い言葉ですね。
――そうやってボディビルの歴史の中でどんどん変化してきていますし、これからも変化し続けていく気がします。
上野:どんどん「かけ声」もグレードアップしていますよ。観客のみなさんも、「自分だったらもっといいこと言える」というのをおそらく考えていたり、その場で思いついたりするんでしょうね。ほとんどアドリブで出てきていると思います。
――選手への応援としての「かけ声」なのですが、観戦者間での掛け合いもよくあるそうですね。
上野:そうなんですよ。特に学生なんかは団体戦もあって学校対抗の意識もあると思うので、のどがつぶれるほどの応援をしていることもありますし、選手への一方通行ではなく、観戦者同士の“キャッチボール”という意味あると思います。「切れてる!」「こっちのほうが切れてるぞ!」みたいな。
――選手も、より良い「かけ声」をかけてもらうために励みにもなりますね。
上野:なると思いますよ。「肩メロン」というのは語呂がよく人気ですけど、最近では「肩カボチャ」というのもあって。メロンのような丸くてきれいな形に血管が浮いている様子がメロンのようだということですが、それじゃ物足りず、より固くてゴツゴツしたカボチャのような肩を目指すようになった人もいるとか。
――いずれ、流行語大賞も獲得できるポテンシャルがある気がします(笑)。
上野:そうですね。本に掲載できたのは一部ですけど、もっと面白いのも他にありましたから。
どんどん広がるファン層。
改めて、ボディビルとはどういう競技?
――最近、女性のボディビルファンも増えてきていると聞きました。
上野:そうなんですよ。数年前に、なかやまきんにくんとか、オードリーの春日さんが大会に出場された影響で、女性ファンがものすごく増えてきたんです。
――いい傾向ですよね。
上野:もともと、ボディビルは隔離された特殊な世界で、関係者しか会場にいない感じでしたけどね。最近では一般の方も多く来ていただいます。
――ボディビルの魅力という点ですが、重いものと持ち上げると、筋肉美を見せるのでは、筋肉の使い方は違いますか?
上野:違いますね。重いものを上げるというのは、なるべく筋肉を稼働させないで上げる手法なんです。なるべく筋肉を使わないで、テクニックで上げる、そのために筋肉を疲労させない上げ方を追求するわけです。それに対してボディビルは、いかに筋肉に効かせて、隆起させるか、ということになります。
――初心者だと、コンテストの審査基準がよくわからないと思うのですが、どういったところで順位が決まるのでしょうか。
上野:一番大事なのは、筋肉の大きさですね。そしてバランス。シンメトリーになっているか、上半身と下半身がバランスよく鍛えられているか。上半身だけ立派で足が細くてもダメだし、その逆もダメ。あとは、仕上がり具合です。
――仕上がりとは?
上野:大きいだけではなく、筋肉の一つひとつがセパレートしていないと、評価対象外になってしまうんです。ディフィニションと言うのですが、筋肉の間に溝ができていますよね。ただ大きいだけじゃダメなんです。
――そのために、選手たちは減量もするわけですね
上野:人によって異なりますが、大会に向けて3ヶ月くらいは減量期になると思います。
――ちなみに、ボディビルのオンシーズン/オフシーズンというのは?
上野:ちょうど、夏頃が大会も多いオンシーズン。10月くらいに大会が終わって、オフシーズンに入ります。
――オフシーズンの過ごし方は?
上野:以前は、オフはガーっとため込んで、体重を増やして、筋肉も増やして、その代わりに脂肪も増えていき、5月くらいに減量をはじめるパターンが多かったと思います。だから、オフシーズンの選手は、お相撲さんとか、ゴリラのようにパンパンな人もいました(笑)。
――試合での引き締まった体からは想像がつきませんね。
上野:でも最近では、オフシーズンも極力脂肪を増やさずに、良いものを食べて、ずっと続けてやっていく方法が増えてきています。そのほうが、コンテストに向けて合理的に体を作っていけるんだと思います。
(続く)
取材・撮影/木村雄大