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世界チャンピオンの育て方② 男子レスリング日本史上最年少世界王者を生んだ指導法に迫る




男子レスリング・フリースタイル65㎏級で初出場初優勝を飾った乙黒拓斗選手が、小学生時代に4年間レスリングを学んだのがゴールドキッズ。同クラブは男女ともに年代ごとの世界チャンピオンを生み出している。世界チャンピオンを育てる秘訣はどこにあるのか? 練習の様子をのぞかせてもらい、自身が元女子世界王者でもある成國晶子代表に話を聞いた。

 

将来に繋がるレスリングノート

全員に同じ技の練習はさせない

練習前でも後でも、マットで組み合っているときでも、成國は子どもたちと向き合い、話を聞き、丁寧にコミュニケーションを取っているが、もう一つ、クラブをスタートしたときから大切にしていることがある。それは、全員に「レスリングノート」をつけさせることだ。

「どんなに小さい子でも、字が書ければ、必ずやらせます。練習したこと。その日よかった点、できなかった点、自分で見つけたヒント。試合なら、何がよくて勝てたのか、何がダメで負けたのか。どうすれば勝てるか。次までにどうなればいいか。トレーニングメニューなどは表になっていますが、それ以外は自由に。それを私が見て、もちろん全員分。『じゃ、次はこうしようね。これをやってみよう。これができるようにがんばろう』と話し合います」

子どもたちのレスリングノート
課題や気づいたことがびっしり書かれている

トップアスリートとまで言わなくても、志のある高校生なら当たり前だろうが、ゴールドキッズでは小学校低学年から自分でノートをつけ、その日の練習や試合を見つめ直し、次の課題を明確にしていく習慣をつけさせる。それが強くなるために必要だから。それが将来に繋がるから。

「拓斗をはじめ、いま大学でトップをいくような子たちは、そういうことはきちんと、几帳面にやっていましたね」

小学生にして早くも、一流と二流の分岐点が見えてきたようだ。

親御さんたちからは「レスリングノートをつけるようになって、宿題の日記が一人でスラスラ書けるようになった。作文がうまくなった」と高評価。”自己表現力”は一流になるために必要なことだろう。

練習が始まると、集団で走ることはなく、すぐにトレーニングに入った。”走る”ことについて、成國は次のように説く。

「クラブを始めたころは、泣きながらやっている子もいましたよ。私が現役時代に教わってきた根性論みたいのが主体でしたからね。メチャメチャ走らせたり、同じことを何度も反復させたり。でも、いまは効率的にやっています。もちろん、走りたい子は自分で走ればいい。それで得ること、鍛えられることも多いでしょう。でも、それはダラダラ、全員でやることじゃない。レスリングというのは、相手の懐に入って、技をかけて、展開する。それが一つのパッケージで、時間にしたら20秒。スパンが短い競技だから、マラソンのような持久力は必要ないんです」

トレーニングにおいて、成國が重視するのはそれぞれの身体能力、なかでも瞬発力を上げることだ。そのために、ラダー(縄梯子)やコーン、跳び箱など体育館にあるありとあらゆるものを使って豊富なメニューを組み、子どもたちが飽きずに、常に新鮮な気持ちで取り組めるよう仕掛けている。

続いて、マット練習。技の打ち込みから始まり、次々と相手を変えてスパーリング。一見するとどこでもやっているようなレスリング練習だが、ゴールドキッズでは全員が同じ技の練習はしない。成國やコーチたちがスパーリングしている選手たちの間をまわり、必要に応じて技を教えていく。黙って聞いていた選手が2~3質問し、再度コーチが細かく手取り足取り指導し、まだなんとなくかもしれないが、わかった選手がマネしてみる。それを見てさらにコーチがアドバイスすると、選手はその技を反復練習する。

「子ども一人ひとり、選手一人ひとり、体格も違えば、能力も異なり、センスも違う。まとめて教えても同じようにはできませんし、全員が同じ技をできるようになる必要もない。自分に合った技を身につけ、それを磨いて得意技にしていけばいい。こっちの子に教えていても、その技に興味がある子は後ろでしっかり見ていますよ。もっと言えば、自分にはその技はムリだと思っても、どうやって防げばいいか、攻略法を考えています。みんなで競って技を覚えると同時に、攻略できるようになっている子もいるから、さらにその上、さらにその上とレベルが上がっていく。子どもでも、コーチに言われるままではなく、自分で考えられる選手になってほしい。

拓斗なんか、その見極め、その技が自分にあっているかどうかの判断はうちにいた頃から速かったですね。前にも言いましたけど、拓斗のよさは瞬発力。それと手足の長さ。ムキムキの筋肉でパワーがあるという選手じゃないけど、肩の可動域を広げて、長い両手を使って相手を上からズドンと落とし、その間に得意のスピードでバックにまわる。中学からJOCエリートアカデミーに行き、いまは山梨学院大で世界で勝つ方法を磨いていますが、子どもの頃から一貫して自分の良さで勝負しています」

 

※つづく。

取材・文/宮崎俊哉 撮影/佐久間一彦

 

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