水に浮くためにはあと30kg脂肪が必要
――トレーニング以外の趣味を教えてください。
鈴木 シューズを病的なまでに集めています(苦笑)。お化け屋敷も好きですね。たとえ苦手なもの、怖いものでも「これは絶対に本物ではない」と思えるものは平気なんです。私は高所恐怖症なんですが、高層ビルの最上階に昇るのは大丈夫なんですよ。なぜなら、絶対に落ちないから。命の保証がある状況で苦手なものを克服している、という感覚が好きなんです。以前はストレスの解消法として、絶対に落ちない高い場所によくいっていました。
――お化け屋敷に入って驚かされたときも筋肉はピクっと動くのですか。
鈴木 動きます。だから、筋肉に力を入れっぱなしの状態が続くので、すごく疲れます(苦笑)。お化け屋敷から出たあとはグッタリしています。
――好きな食べ物は?
鈴木 アナゴのお寿司ですね。私は一度ハマったものは、しばらく食べ続けるタイプなんです。以前、スーパーで売っていたミネストローネにハマったことがあって、毎日食べていた時期がありました。ただ、スーパーで購入できるときは毎日食べ続けるんですが、売り切れて、それが2、3日続くと「もういいか」と思ってしまう。ボディビルに対してもそうです。ボディビルが存在しない世界が2週間ほど続いたら、「もういいかな」と思ってしまうと思います。ボディビルに固執することはないです。
――水泳は得意ですか?
鈴木 まったくできません(苦笑)。08年に試合でインドネシアのバリに行ったときに、ホテルに深いプールがあったんです。私は水泳をやっていたこともあるので、かんたんに泳げるだろうと思って平泳ぎをやっていたら、どんどんと沈んでいって(苦笑)。溺れそうになったんですが、インド人のボディビルダーが潜って助けにきてくれて、ことなきを得ました。
――筋肉って重たいのですね。
鈴木 たぶん、私の筋肉量ですと、あと30kgくらいは脂肪をつけないと水には浮かないと思います。
野球選手の筋肉がサッカーでは使えないように
――かつては「ボディビルダーの筋肉はみせかけの筋肉」とよく言われました。
鈴木 近年はあまり言われなくなりましたよね。「見せかけの筋肉」とは言われなくなったのですが、「競技では使えるの?」とは言われます。これははっきり言います。ボディビルダーの筋肉は見せかけのものではありませんが、所詮は使えない筋肉です。
――使えない筋肉ですか!?
鈴木 ボディビルダーの筋肉は「ボディビル」という競技で使える筋肉なんです。サッカー選手の筋肉が野球で使えるかといえば、そうではありません。だから、鍛えた筋肉をその競技で使えるように、練習をしていかないといけません。ボディビルダーが競技で筋肉を生かせるようになると、ものすごい力を発揮しますよ。
――筋肉自体が「使えるか」「使えないか」ではなく、鍛えた筋肉をいかにして「使える」ようにしていくか?
鈴木 そして、その競技で使う筋肉がしっかりと鍛えられているかどうか。実際、大胸筋を競技スポーツで使うことはあまりありません。ですが、トレーニーの間ではベンチプレスは人気種目です。競技に生かしたいなら、ベンチプレスよりもスクワットのほうが有効だと思います。
ボディビルの普及のためにも連覇を狙い続ける
――鈴木選手は王者として「ボディビル」を広めていく役目も負っています。
鈴木 SNSは有効な手段だと思っています。最近、電車に乗っていると、「僕はトレーニングはやっていないんですけど、友だちがトレーニングをやっていて鈴木さんの写真をよくアップしています」という声をかけられるんです。人は自分がやっていないものに対しては、なかなか興味を抱きません。しかし、家族や友だちがやっているものには興味を持つものです。SNSに友だちがアップしたものは、目にするはずですからね。
――そうやって、ボディビルを知らない人のもとに鈴木選手の存在が届けられる。
鈴木 私はゴールドジムに勤めていて、トレーナーとしてボディビルのことをまったく知らない初心者の方に指導することがあります。そういった機会はとても大事だと思っています。その方は、次にジムにくるまでに「あのトレーナーさんは、何をやっている人だろう?」と、私のことを検索してくれるかもしれません。そして、検索したあとは、ご家族に「こういう人に教えてもらった」と話すかもしれない。ボディビルという競技を一般の人たちのもとに届けるには、そういった小さなことを積み重ねていく必要があると思っています。
――オードリー春日さんの師匠としてテレビに登場することもあります。
鈴木 ただそれも、ボディビルを知らない人のなかでは「こういう人がいるんだね」で終わってしまいます。ですが、家族や友人などと関わりがある人がテレビに出ていると、「あ、この人知ってる!」と思ってもらえる。それはすごくいいことだと思っています。テレビなどに出演させていただいた際には、体づくりに関する正しい情報を伝えていきたいですね。
――世界選手権でも優勝されました。日本選手権では連戦連勝で、世界チャンピオンにもなった。今後は何を目標にしてボディビルに取り組まれていくのでしょう。
鈴木 私の目標は「優勝」という結果を出すことではなく、自分自身の体をレベルアップさせていくことです。それが私のボディビルに対する基本的な考え方です。体がアップデートされていかないと、必然的に順位は下がっていきます。また反対に、勝ち続けないと、私自身がボディビルを普及させることはできないと思っています。大きな大会を連覇したなど、そういった伝わりやすい実績がないと。だから、出場しつづける限りは、連覇を狙っていきます。
(この項終わり)
聞き手/藤本かずまさ
1980年12月4日、福島県出身。身長167㎝、体重80~83kg。2004年にボディビルコンテストに初出場。翌05年、デビュー2年目にして「日本でもっともレベルの高いブロック大会」といわれる東京選手権大会で優勝。10年からは全日本選手権で優勝を重ね、16年に7連覇を達成。同年にはアーノルドクラシック・アマチュア選手権80kg級、世界選手権80kg級と二つの世界大会でも優勝を果たした。