ジャイアントキリングを導いたフィジカル【いわきFCが描くサッカーの未来①】




(PHOTO:いわきFC)

フィジカルコンタクトで負けない強さ

サッカー関係者から、頻繁に耳にする言葉がある。「フィジカルは重要だ」。ところが、フィジカル強化に真剣な取り組みを見せているチームは少ない。天皇杯で旋風を巻き起こした「いわきFC」が出現するまで、日本には皆無だったと言っても、決して過言ではないだろう。サッカーにおけるフィジカルとは何か? いわきFCとは、一体どんなクラブなのか? S&C(ストレングス&コンディショニング)の角度からこのクラブを捉え、数回に分けて報告を行いたい。

2017年6月21日、第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会2回戦において、J1のコンサドーレ札幌を、いわきFCが5対2で破った。実質7部に相当する、福島県1部リーグ所属のクラブによる快挙である。

コンサドーレ札幌戦ではあたり負けない強さを見せたいわきFC(PHOTO:いわきFC)

いわきFCの売りは「フィジカル」。チームのビジョンの1つに「日本のフィジカルスタンダードを変える」ことを掲げている。コンサドーレ札幌戦の勝利は、2対2の同点で突入した延長戦、体力的に厳しい時間帯に3点を奪って成し遂げた結果であり、フィジカルの勝利と評されている。3回戦では、同じくJ1の清水エスパルスに0対2で敗れたが、前半に3度の決定機を作り出すなど、内容としては、「普通に」戦えていた。フィジカル重視の方針が、着実に実を結んでいると言って良さそうだ。

そもそも、サッカーにおけるフィジカルとは何なのか? 大まかには、90分間走り回るエンデュアランス・フィットネス(持久力)と、相手に当たり負けないストレングス、この2点と言えそうだが、フィジカルという用語は、特に後者を強調していると思われる。だが、なぜストレングスが必要なのか、サッカー関係者以外には、理解しにくいかもしれない。

最先端の設備でフィジカルの強化に励む選手たち

その重要性の理解を進めるため、ラグビーを例に取ってみよう。ラグビーはコンタクトスポーツであり、相手とぶつかり押し合うなど、格闘的要素の強い競技である。基本的には、体の大きい選手が揃うチームが有利である。

一方で、80分間走り続ける競技でもある。そのため、サイズに恵まれないチームの多くが、走り勝つことを目指す。だが、ストレングスの部分で劣ると、結局走り切ることができなくなる。一定ペースで走るのではなく、ストレングスを発揮しながら走るためだ。ラグビーの80分とは、例えるなら、冷蔵庫を建物の上階まで運び、次の建物まで走り、また運ぶことを繰り返すようなものである。チーム全員を長距離選手で揃えたとしても、ストレングスの部分、コンタクト局面で負けると、疲弊して結局は走れなくなってしまう。

サッカーでも同様の現象が起こる。ボールを奪うため、シュートやパスなどで有利な態勢を取るため、相手と体をぶつけ合う。こうしたコンタクト局面での差が大きいと、弾き飛ばされることもあり、それが蓄積して体力が奪われる。ラグビーほどコンタクトは激しくないが、ラグビーよりも10分長い90分間に、フィジカルが影響を及ぼすのである。

チームでは週に通常3回、現在は4回、フィジカルのトレーニングを組み込んでいる

駒澤大学を卒業、いわきFC加入2年目のMF久永翼の言葉が、サッカーにおけるフィジカルの重要性と、いわきFCの強みを、端的に捉えている。

「大学時代、素走り(ピュアランニング)では自信があったのですが、試合中に思ったより走れないというのを、ずっと感じていました。いわきFCに来てからは、フィジカルコンタクトの時の消費が少なくなりました。100%で当たらずに勝てることが多くなりました。60%の力で当たって、(残る40%を)他のところで使えるというのを感じています。フィジカルを鍛えることで、逆に90分が楽に感じられるようになりました

では、いわきFCは、どのような環境で、どのようなフィジカルトレーニングを行っているのか? 次回以降、その施設、選手、練習内容などについて、具体的に紹介したい。

取材・文/木村卓二