ボディビルは「ポージング」によって競われる競技である。選手それぞれが得意なポーズを駆使するのではなく、全員が「規定ポーズ」といわれる同じポーズをとり、その上で比較・審査されていく。基本ポーズはダブルバイセップス、ラットスプレッド、サイドチェスト、バック・ダブルバイセップス、バック・ラットスプレッド、トライセップス、アブドミナル&サイの7ポーズ。このなかで、一般的に「ボディビルっぽいポーズ」として浸透しているのが、両腕の力こぶを誇示するダブルバイセップス、腰のあたりで両手を組んで大胸筋に力を入れるサイドチェストあたりだろう。ちなみに、このコラムのバナーのイラストになっているポーズはサイドチェストだ。
野球に右打ち、左打ちがあるように、ボディビルにもサイドチェストでは右のほうが組みやすい、左のほうがしっくりくる、などがある。また、背中を客席に向けるバック・ダブルバイセップスでは片方の足を斜め後ろに流すのだが、こちらも選手によって右、左と流しやすい足がある。左右を逆にして組むと、やりづらさや違和感を覚えるものだ。
「ポージングは左と右とを使い分けました」
そう語るのは、高校選手権、そして同日開催のジュニア選手権でも優勝を果たした筋肉界のスーパー高校生・相澤隼人。2017年10月9日に開催された同選手権では、その状況に応じて器用にポーズのとり方を変化させていったという。
「高校選手権とジュニア選手権の両方に出るとなると、体力を消耗します。だから、高校選手権ではバック・ダブルバイセップスのときは右足を下げてポーズをとり、よりカットが出る左はジュニア選手権にとっておきました」
バック・ダブルバイセップスでは、ハムストリングスやお尻の筋肉も重視される。後ろに流したほうの足で踏ん張ってハムストリングスに力を入れていくのであるが、例えばずっと右足で踏ん張っていると、右のハムストリングスに疲れが溜まり、しだいに力を入れづらくなっていく。
そこで相澤は、得意部位の左のハムストリングスを高校選手権の直後に行われるジュニア選手権に温存。高校選手権では右で勝負していったのだ。
また、ライトの当たり方によって、筋肉の見え方は変わってくるもの。右からライトが当たっているのに、右に背を向けてしまうようなポーズをとるのはもったいない。相澤は、サイドチェストはステージ上で立っている位置、つまりはライトが当たる方向によって右組み、左組みを使い分けていったという。客観的な肉体美を競うボディビルならではの駆け引きと言える。
音楽に合わせてポーズを披露するフリーポーズも見事だった。憧れの鈴木雅のフリーポーズを「丸パクリしてしまいました(苦笑)」というものの、ポーズとポーズの合間のアクションもスムーズにこなすところには天性のセンスが感じられた。
「今後は日本クラス別選手権にも出てみたいと思っています。若いうちから一般(大人)の大会に出ていってキャリアを積み上げていきたいです」
2017年11月にはルーマニアで開催される世界ジュニア選手権にも出場する相澤。ボディビルの天才児は、これからも階段を昇り続ける。