デカくて、速くて、強い選手を作る【いわきFCが描くサッカーの未来③】




「フィジカル革命」はサッカー界を変えるか?

いわきFCでは週に3、4回以上フィジカルトレーニングを行う

天皇杯で「フィジカル旋風」を巻き起こしたいわきFC。この現象を、S&C(ストレングス&コンディショニング)の角度から捉える本稿、今回はフィジカル強化の責任者、「パフォーマンスコーチ」鈴木拓哉の言葉を紹介する。いわきFC就任以前は、野球、ラグビー、バスケットボール、バドミントン、ゴルフなどの選手を担当、サッカー選手の指導は初であり、自身は「リフティングは5回もできません」と笑う、門外漢である。その経歴だからこそ見える、サッカー選手のフィジカル的特徴と問題とは何か?

――最初に受けた、いわきFCの選手の印象を教えて下さい。
鈴木 正直、細いなと思いました。「あ、これでやっているんだ」と。まあ、日本代表も(体型、フィジカル的に)ああいう感じですし、イメージ通りでしたね。

――世間では、サッカー選手は脚が太いと言われています。S&Cコーチの目から見て、どう思いましたか?
鈴木 いやあ……普通(笑)。ラグビーをサポートしていたので、それがスタンダードになっていました。

――サッカー選手に特徴的な強さは何かありましたか?
鈴木 体幹はよくできているなと思いました。プランクや腹筋など、自分でできる範囲のことですね。最初にやらせてみて、姿勢が取れる選手が多かったです。

――逆に、できていなかった動作は?
鈴木 「ヒップヒンジ動作」です。習ってこなかったのかなと思います。スクワットは、思っていたよりもできましたが、ルーマニアンデッドリフトになると、うまく骨盤が使えず、体幹をニュートラルにしながらおしりを引っ込めることができない。パワーポジションが取れなかったです。

――可能性は感じましたか。
鈴木 カラカラのスポンジみたいなものです(笑)。水を入れたら一気に膨らむ。なんでも吸収してくれました。就任当初はジムがなく、駐車場でのトレーニングから始まりました。ベンチプレスの台もありませんでしたし、腕立て伏せから始めました。それと、自重スクワット、ランジ。高校生レベルと言っては失礼ですが……。白紙のキャンパスですね。なんでも描けますという状態でした。だから、逆にやりやすかったです。

デカくて、速くて、走れる選手の育成を目指す

――サッカー選手に求めるフィジカルとは、どのようなものでしょうか?
鈴木 理想のイメージは、アメリカンフットボールのワイドレシーバーです。ある程度デカくて、速くて、走れる。全部そろっている人ですね。倒れない、切り返しもできる。よく、デカくなると走れないと思っている人がいます。でも、選手に言うのは、「同じフットボールでしょ?」ということです。欧州でサッカーはフットボールと呼ばれますし、ラグビーもアメリカンフットボールもフットボールです。サッカーにも、コンタクトがある。だからと言って、アメリカンフットボールの選手を目指そうと言うと、選手からすると「は?」となる。ベタですけど、クリスチアーノ・ロナウドを目指そうと。それが世界だよと。トータルパッケージと呼んでいますが、“bigger, faster, stronger”(より大きく、より速く、より強く)、そこを目指そうと。

――アメリカンフットボールの場合、プレーの中断が多く、エンデュランスフィットネス(持久力)は、あまり求められませんよね?
鈴木 そういう意味では、アメリカンフットボールの選手も超えないといけないのかもしれないですね。

選手たちの現状に嘆くことなく、逆に無限の可能性を感じ取る、前向きな思考。高き理想を掲げるいわきFCにとって、天皇杯での快挙は、フィジカル革命の途中に起きた、1つのエピソードに過ぎないのかもしれない。

次回は、フィジカル面の進化の可能性と、いわきFCが取り組む実験的アプローチについて、引き続き鈴木拓哉パフォーマンスコーチの言葉を紹介する。

ジャイアントキリングを生み出す土台を作ったパフォーマスコーチの鈴木拓哉

取材・文/木村卓二