体を動かすことはメンタルにも有効
ーー運動をして汗を流すと、ストレスが解消された気になりますが、それは心理学的な裏付けはあるのでしょうか?
菅生 ありますね。体を動かすことが抑うつ状態の改善に役立つということについては、多くの科学的エビデンスがあります。特に2000年代には健康スポーツ心理学という分野で多くの研究が進められ、特に抑うつ状態の改善にスポーツが有効だということが示されています。
ーーどれくらいの運動をすればいいという目安などはあるのでしょうか?
菅生 年齢や運動経験にもよりますが心拍数でいうと120以下の中程度の強度の運動を1日合計30分程度で十分というデータが示されています。ですから、気持ちが沈みがちなときなどは、エレベーターをやめて階段を登るようにしたり、走らなくても極力歩くように心がけるだけで十分効果があります。
ーーその程度で効果が得られるのですね。そう聞くと心理的なハードルも下がりますし、始めやすいですね。
菅生 そうですね。人間は何かを始める時に心理的なハードルがあると、なかなか動き出せないものですから、そうしたハードル、心理学ではバリアと呼んだりしますが、それを下げてあげることは大切です。
ーーハードルを下げるために有効な方法というのはあるのでしょうか?
菅生 例えば「ランニングを始めよう」と思っても、そのためのウェアやシューズが揃っていないというだけで、心理的にはバリアになってしまいます。ですから、ランニング用のシューズやウェアを買って、畳んで玄関に置いておく。これだけでバリアを取り除くことができます。
ーーなるほど。ランニングを始めるためにシューズを買うという話はよく聞きますが、心理学的にも効果のある方法だったのですね。
菅生 そうですね。最近はオシャレなウェアでランニングを楽しんでいる人が増えましたが、これはとても良い傾向だと思います。何かを始める際に環境作りから始めるというのは大切です。
1973年、東京都出身。大阪体育大学体育学部スポーツ教育学科准教授。日本大学→日本大学大学院卒。卒業後は国立スポーツ科学センターに勤務し、トリノ五輪日本代表選手のメンタルトレーニングを担当した。現在はスポーツ心理学の研究・育成、講演などメンタルトレーニングのスペシャリストとして活躍中。