毛細血管の血流をスムーズにする
「毛管運動」は前回の「金魚運動」とともによく知られた西式医学(西勝造氏)健康運動である。これは西式医学の「血液の循環は毛細血管網が行っている」という根本原理のもとに考えられた運動だ。つまり、血液の循環は心臓のポンプ作用で行われているという現代医学の常識を真っ向から否定したもので、現代医学でも、毛細血管が一番多いふくらはぎが第二の心臓と呼ばれていることでもあるし、その是非をあえてここで問うのは避けたい。「毛管運動」が健康に結びついているということだけが、このコラムのテーマだからだ。
いまさら言うまでもないが毛細血管の役割は栄養や酸素を体のすみずみの細胞に送り込むことだ。だから毛細血管が劣化すると体の細胞が弱くなって不健康になっていく。冬になるとあかぎれとか、かかとのひび割れなどができて、なかなか治らない人がいるが、これなどは毛細血管による血液循環が悪くなって、皮膚の再生機能が衰えているということでもある。こむら返りの原因も血液循環が悪いために筋肉が収縮して起こることだ。つまり、毛細血管を活性化させて血液循環をよくしていけば、健康な体に近づいていくわけで、「毛管運動」とは毛細血管をイキイキさせるための簡単な運動である。
さて「毛管運動」のやり方を紹介しよう。平面の床に仰向けに寝て、首に枕をあて、両足、両手を垂直に上げる(*両足は多少傾斜しても構わない)。両足のつま先は直角に立てる。脊柱部はできるだけ床に密着させる。そして小刻みにぶるぶると両手両足を震わせていく。2分ほど行うので最初はつらいかもしれないが徐々に慣れていけばいいだろう。朝と夕の2回。
この運動が終わって手足を床に下ろした時、血液がサーッと流れるのを感じるに違いない。毛細血管だけでなく静脈の循環という点からも優れた運動だ。
「両手両足を垂直に上げることだけでも引力の関係で、静脈の循環を促進することになる。さらに毛管運動によって帰路循環が促進されるということは病理学的に見て、いかに重大な意義を持つものであるかは、ここに贅言を要せぬところであろう」と『西勝造著作集第一巻』で西勝造氏が述べているが、静脈の循環が悪くなると静脈血行障害でむくみがでたり、下肢静脈瘤を引き起こして、血液が流れにくい状態となる。
下肢静脈瘤になると血液が漏れていき皮下脂肪に血液成分が付着していく。この状態がさらに悪化していくと皮膚潰瘍になっていき、敗血症を引き起こす原因になり、それを防ぐために下肢を切り落とさなければならなくなるのだ。「毛管運動」は、むくみをなくし、全身の筋肉疲労をなくし、腎機能を向上させることができるもっとも簡単な運動であり、血液循環のしくみを根本から研究した西勝造氏の真骨頂とも言える運動である。
文/安田拡了
参考資料…西勝造著作集第一巻「西医学の基本」(1983年、柏樹社発行)