通勤に向く自転車とは?
疋田智さんにきく自転車通勤の楽しみ方③




今年5月に「自転車活用推進法」という法律が施行され、追い風が吹いている自転車通勤。“健康”という点でも注目を集めていますが、どんなメリットがあり、何に注意すべきなのか? 自転車通勤する人を意味する“自転車ツーキニスト”という言葉を広めた当人であり、NPO法人自転車活用推進研究会の理事も務める疋田智さんにお話しを伺いました。第3回はより快適な自転車通勤のためのツールについてです。

自転車通勤にお薦めの自転車は?

約20年前に自転車通勤を始めた際は、「ユーラシア」というツーリング車(ランドナー)を使っていたという疋田さん。
「今考えると、『ユーラシア』は装備含めて重量15kg近くありましたし、タイヤも少々太すぎて自転車通勤に向いていたとは言えませんでしたね。その後、クロスバイクに乗り換えたら700cというロードバイクと同じ直径で細めのタイヤが付いているので走りが軽くて驚きました」

クロスバイクは前傾姿勢もきつくなく、タイヤもサドルも適度に軟らかめなため、これから自転車通勤を始めようとする初心者にはお薦めだと言います。
一時期はロードバイクで通勤していたこともあったといいますが、残念ながら盗難に遭ってしまったとのこと。「高価なロードバイクは確かに速いのですが、盗まれてしまうとショックが大きいので、オフィスに持ち込めるなど駐輪の環境が整っていないと、仕事中に不安になってしまうかもしれませんね」と語る疋田さんが、現在使っているのは意外なことに電動アシスト自転車だといいます。
「子ども2人を前後に乗せて保育園に送って、そのまま出勤しているので子乗せの電動アシスト自転車です。これが意外と快適です。総重量35kgと重い上、時速24kmでアシストがゼロになってしまうので、スピードを出したい人には向かないかもしれませんが、坂道や信号待ちからの発進は楽なので疲れません」

最近では電動アシストのシェアサイクリングも増えてきているので、短距離の通勤などに活用できそう

アシストがあると、運動にならないと思う人もいるかもしれないが、ある程度の力でペダルは回し続けなければならないので効率の良い有酸素運動が可能なのだとか。
「脂肪燃焼のための有酸素運動は、最大心拍数の60%くらいで運動を続けるのが良いといわれていますが、ノンアシスト(なかでもママチャリ)で飛ばすと結構60%を超えてしまうんで。特に登り坂や、スタートから加速するシーンで心拍数が上がりやすい。その部分をアシストしてくれると効率良く有酸素運動が続けられます」

電動アシスト自転車は日本で生まれた乗り物ですが、今や世界的に人気が高まっているとのこと。
「フランクフルトや台北で行われる国際的な自転車ショーに行っても目立つのは電動アシスト自転車ばかりですね。海外は日本に比べて出力や速度の上限などの規制が厳しくないので、スポーツタイプのモデルも充実しています」

国内でもヤマハがロードバイクやクロスバイクタイプの「YPJ」シリーズを発売しており、パナソニックもマウンテンバイクの「XM1」をリリースするなど、スポーツタイプの電動アシスト自転車が増えてきています。これから自転車通勤を始める人は、こうしたモデルも検討してみても良いかもしれません。

自転車通勤をより拡大するためには

最後に、自転車通勤がしやすい環境や街作りについても聞いてみました。

オランダやデンマーク、ドイツなどの欧州各国では自転車の利用が活発だといいます。
「自転車通勤に絞ると、最も進んでいるのはデンマークのコペンハーゲンだと思います。ここでは都市交通法の中に自転車通勤についての記述があり、自転車通勤者を5割まで増やすという目標も掲げられています。企業に対しても目標を定めて、達成すれば税の減免などの措置も用意されている。もちろん、自転車利用のインフラも整っていて、自転車専用道があるのはもちろん、首都高のように空中を通って駅までつながっているような道も作られています」

コペンハーゲンは最も進んだ例だが、自転車利用については遅れていたものの、五輪を契機に専用道やシェアバイクの導入などを進めたのがイギリスのロンドンです。
「東京も自転車利用については先進国の中でも明らかに遅れています。クルマ社会のイメージがあるアメリカでさえ、ポートランドやサンフランシスコなどの都市では自転車利用が進んでいます。東京もオリンピックを目標に整備を進めるべきだと思います」

コペンハーゲンやロンドンなど欧州などの大都市部では、シェアバイクなど自転車活用が盛ん© biker3 – Fotolia

そのためには、何から始めるのが良いのでしょうか?
「まずは左側通行を徹底することではないでしょうか。自転車は車道を走れといっても、歩道を走ることに慣れた一般のママチャリ乗りの方々には抵抗感があるでしょう。自転車道や自転車レーンの整備にしても、現在のような途切れ途切れになっている状況では、それを待っていても仕方ありません。それならば、できることから始めるべきです。自転車で一番多いのは出会い頭の事故。左側通行が徹底されれば、これが劇的に減りますから、それだけでも効果は大きいと思います」

ロンドンでは五輪を契機に自転車レーンなどの整備が飛躍的に進んだ© chrisdorney – Fotolia

今年5月に施行された「自転車活用推進法」の中では、第一条に「自転車の活用による環境への負荷の低減、災害時における交通の機能の維持、国民の健康の増進等を図ることが重要」と書かれています。また、国や地方公共団体、事業者、国民にはそれぞれ「自転車の活用の推進に関する施策」に協力するよう務めることが明記されています。

自転車通勤に代表される自転車の活用が健康の増進だけでなく、環境負荷の低減などにも効果があることは、行政も認めるところです。この法律の施行や2020年の東京オリンピックなどを契機に自転車の利用が進むことを期待したいところです。

取材・文/増谷茂樹


疋田智(ひきた・さとし)
テレビプロデューサーという本業に加えて“自転車ツーキニスト”としても活動。NPO法人自転車活用推進研究会理事、学習院大学生涯学習センター非常勤講師も務める。自転車に関する著書に『自転車ツーキニスト』(光文社)、『自転車生活の愉しみ』(朝日文庫)、『自転車の安全鉄則』(朝日新書)、『ものぐさ自転車の悦楽』(マガジンハウス)『電動アシスト自転車を使いつくす本』(東京書籍)など多数。メールマガジン「週刊 自転車ツーキニスト」でも自転車通勤にまつわる情報を発信している。