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鉄人は鉄人。ケガは気合いでは治りません【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第7回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

久しぶりに強度の腰痛に襲われ、この1週間はトレーニングに行くこともできず、仕事もはかどらず、満員電車には怖くて乗れず、くしゃみに怯える日々を過ごしてきました。思えば腰痛とはかれこれ30年近い付き合いになります。幼馴染みみたいものですね。

腰痛に限らず、肩、ヒジ、足首……と体のあちこちに古傷を抱え、どこかに痛みを感じるたびに現役時代はずいぶん無理をしてきたなぁとしみじみ思う40代です。

さて、スポーツをやっていればケガは付き物。ケガとどう向き合い、どう付き合っていくかは、長くプレーするためにもとても大事なことです。

「動けばそれはケガじゃない」

こう語ったのは現在、阪神タイガースの監督を務める金本知憲さん。現役時代は“鉄人”と呼ばれ、1492試合連続フルイニング出場という世界記録を打ち立てた人物です。

「骨がボキッと折れてしまったら野球はできないかもしれない。でも、場所によってはそのままプレーできたりするものだから。それを『ケガです』と言えばケガでしょう。でも、多少の痛みを我慢すれば普通に動くのならば、それはケガじゃないから」

ケガをケガと思わなければ、それはケガではない。まさに鉄人理論。捻挫も骨折も自然に治るものだから動くならプレーをするというのが現役時代の金本さんでした。プロフェッショナルで素晴らしいです。ただし、こうした考え方は、あくまでも人並み外れたフィジカルを持つプロであり、チームの中心という責任感から生まれてきたものだということを忘れてはいけません。体が成長過程にある学生は、同じ考え方をするべきではないでしょう。ケガを押してプレーしたというのは美談で語られがちですが、将来的なことを考えたらそれは推奨されるべきではありません。

学生スポーツの場合、高校生なら3年間、大学生なら4年間とプレーできる時間が限られています。そのため、どうしてもケガを押して、ケガを隠して無理をする選手が多いと聞きます。選手が自主的に無理をすることはもちろん、それ以上に良くないのは、結果にこだわる指導者が半強制的に無理をさせること。幸い私は指導者に恵まれていましたが、他校との合同練習や合宿では、ケガを抱えている選手に「そんなものは気合いで治せ」というような言い方をしている指導者を目にしたこともあります。「ケガは気合いで治す」という無茶苦茶な理論がかつては存在しました。

学生、子供向けの書籍には参考になる指導者の考え方も記載されている

近年、子供や学生に向けた多種多様なスポーツの技術書を多数制作させてもらい、そのなかで多くの指導者の方と会って話をする機会も増えています。そうした方々は技術や戦術の追求だけでなく、「痛い」と言える空気作りだったり、ケガをしないフォームの追求だったり、選手のケアもしっかりと考えています。

先日取材したあるソフトボール部も選手のコンディションにはかなり気を使っていました。コンディションノートの提出を徹底させ、気になる箇所があったら必ずそこに記載し、トレーナーや医師のチェックを受けて練習のGOサインを出すというものです。

選手は学生時代の限られた時間で結果を出そうとするあまり、無理をしようとすることもあります。だからこそ、指導者が無理をさせない環境を作り、しっかりサポートしていくことがケガの予防や悪化を防ぐためにも大事だと思います。

鉄人はともかく、普通の人の場合、ケガは気合いでは治りません。というわけでトレーニングは腰痛が癒えてから再開します。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。