【鉄人アスリート】永田裕志③




プロレスラー永田裕志は、IWGPヘビー級王座10度防衛、G1クライマックス優勝、チャンピオン・カーニバル優勝など、輝かしい実績を残してきた。今年4月に50歳になったが、そのバイタリティーはまったく衰えることがない。今回は10年前に脳出血をしたときのこと、そしてそこから学んだことについてです。

 10年前の脳出血を機に勉強をして意識が変化した

――巡業に出ると生活サイクルはどうしても狂うと思います。そのなかでもコンディションを作っていくために大事なポイントはどこでしょう?

永田:巡業に出ると移動時間が大半を占めるので、どうしても練習時間は限られてしまいます。だから自分の場合は、試合前のわずか1時間半の練習時間のなかで、どれだけ汗をかけるかということに重点を置いています。

――ここでも汗をかくことがポイントなんですね。

永田:だいたいキャリアを積んでくると、試合前はバーベルしかやらなくなる選手が多いんです。バーベルで体を作って、あとはストレッチをやって終わりという感じですよね。でも自分の場合は午前中に時間があるときはホテルの近くのジムに行って筋トレをやって、エアロバイクを漕いで、1時間~1時間半くらいは汗を流すようにしていますね。午前中にジムに行けた日は、会場に行ってからはストレッチを入念にやって、あとはレスリングのスパーリングをやります。それでも足りなかったらダッシュをしたりして、とにかく汗をかくようにしていますね。

――筋トレだけでも基礎代謝は高まると思いますが、汗を流すと違いますか。

永田:僕自身がレスリングをやっていたから、汗をたっぷりかくと練習をしたという満足感が得られるわけですよ。筋トレをやって代謝を上げて、そして有酸素運動をやる。そうやってたっぷり汗をかいたら食事もお酒も美味しいしね(笑)。

――食べたり飲んだりはまだガンガンいける感じですか?

永田:今は普通ですよ。ただ、お酒を飲むと満腹中枢がおかしくなって、食べすぎてしまうこともあるので、そういうときは、翌日はカロリーを摂りすぎないように注意します。たとえば朝はサラダだけにするとかして、調整するようにしています。あとは水をたくさん飲むことですね。朝起きてからと夜寝る前はとくに意識して水を飲んでいます。

――栄養面の指導などはどこかで受けたことがあるのですか?

永田:10年前に一度、血圧が高くなって脳出血をしたことがあるんです(2008年2月17日の両国国技館大会の試合前)。あのときは水を飲むという習慣がなかったんですよね。脳梗塞ではなかったのですが、海綿状という特殊な腫瘍があって、そこから出血をしてしまったんです。血圧が高くて、首がガチガチになっていたり、寒い中で走ったり、水分も足りてなかったりと、いういろいろな理由が重なって少し出血して、そういうことがあったから、体のことについて勉強しました。そこでお酒と水は、水分といっても全然違うということを学びました。トレーニングをして、サウナに入って、ビールを飲んだら、それは確かに美味しいですけど、体には絶対に悪いからダメなんですよ。トレーニングをすると大量に汗をかくので、その分水もたくさん飲むようにはしています。

――たくさん水を飲むと基礎代謝がよくなるそうですね。

永田:それは本当にそう思いますね。寝不足で体が重いときでも、水をたくさん飲んでいると汗も出るし、おしっこも出るし、体がラクになることがあります。水を入れることによって体の中の成分が循環して、悪いものが出ていくんですよね。ケガをしたとか、病気をしたとか、いろいろな経験がある人から、そういう実体験を聞いたりすることもありますし、自分が脳出血を起こしてしまったときには調べて勉強もしましたし、どうしたら体にいいかを考えて、そうしたものは知識として積み重なっていますね。

――トレーニングの蓄積だけでなく、知識の蓄積もあるのですね。

永田:最近はレスラーでも、若いうちから体をバキバキに作り上げて、確かに見た目的にはすごくいいと思います。ただ、自分はそれを疑問に思う部分もあるんですよ。いい体にはなるけど、若いうち、まだ体が出来上がる前から絞ってしまうと、ケガをしやすくなるような気がするんです。僕もケガはしましたけど、長期で休むようなケガはないし、ケガ自体が少ないほうだと思います。それはバランスを考えながら食事をしていたことも影響していると思います。とくに炭水化物なんかはカットしないでバンバン食べていましたから。プロレスは自分で想像している以上にカロリーを消費するし、ダメージも蓄積するんです。だから糖質、炭水化物は必要なんですよね。

――トライアスロンは、エネルギー消費が激しいので、大会前にはご飯、パン、パスタなどの炭水化物がたっぷり振る舞われる「カーボパーティ」があります。プロレスも相当なエネルギーを必要とするので、炭水化物は不可欠ですね。

永田:消耗に関してはトライアスロンに近いものがあると思いますよ。ボディビルだったらバキバキの体にしてもケガをする心配はしなくていいですけど、プロレスはそういうわけにはいかないですからね。だから体が出来上がる前にバキバキの体を目指してしまうと、必要なエネルギーが不足してケガをしやすくなる気がするんですよ。

――永田選手は本当にケガがないですよね。

永田:長期欠場は1回もないですね。一番長く休んだのが脳出血を起こしたときで3カ月。継続は力なりというように、トレーニングやしっかりした食生活を続けていくことも大事ですよね。今は2~3日でもまるっきりオフということはあまりなくて、軽い負荷でもエアロバイクを漕いだり、ストレッチをしたり、必ず体を動かすようにしています。ただ休むよりも、そっちのほうが体は楽になるんですよ。体を動かせば食事もお酒も美味しいし、食事制限をして体を絞ることもしないので、余計なストレスを感じることもありません。それが僕のコンディション作りのポイントですかね。

永田裕志(ながた・ゆうじ)
新日本プロレス所属。1968年4月24日、千葉県出身。アマチュア時代はグレコローマンレスリングの選手として活躍し、92年に全日本選手権で優勝。その後、新日本プロレスに入門し、92年9月14日、山本広吉戦でデビュー。01年に武藤敬司を破ってG1クライマックス初優勝。02年に安田忠夫からIWGPヘビー級王座を奪取すると、当時の最多防衛記録となる10連続防衛に成功した。現在は全日本プロレスの秋山準とともにアジアタッグ王者に君臨する。