収容人数1318人を誇り、もともとオーケストラの演奏ホールとして設計されたこの場所で開催されたのは、なんとボディビルコンテストだった!
受付を済ませ、ロビーに入って行くと、ウェアやプロテインなどの売店が立ち並んでいた。まさに筋肉尽くし!
ボディビル大会の会場とだけあって、応援する人も、トイレですれ違う人も、協賛企業による売店の販売員さんも、右も左もムキムキに鍛えられた鋼の肉体の持ち主ばかり。
一方筆者は典型的なやせ細タイプ。少しだけ引け目を感じながら、ホールの中に入って行くと、選手、観客が一体になった不思議な空気が支配していた。
座席に着き、もらったパンフレットを読んでいると、ボディビルコンテストなのに「フィジーク」、「ボディフィットネス」という聞きなれない横文字が羅列されている。一体これは何なのだろうか?
「ボディビル」「フィジーク」「ボディフィットネス」って?
「ボディビル」、「フィジーク」、「ボディフィットネス」。。。
この3つにはどんな違いがあるのか。会場を歩く東京ボディビル・フィットネス連盟の方に、お話を伺うと…。
「『ボディビル』というのは、全身の筋肉の発達と皮下脂肪の少なさを競う競技です。バランスの良さも重要で、上半身に比べて下半身の筋肉量が不足していたりすると審査で減点される可能性があります」
――なるほど。では「フィジーク」はどういった競技なんですか?
「『フィジーク』では、特に逆三角形を強調した体型が求められており、足は審査の対象になりません。『ボディビル』と比べると、力強さよりは、しなやかさが求められます。女子フィジークに関していえば、フリーポーズでは女子らしさと芸術性が必要になってきます」
――そうなんですね。すると「ボディフィットネス」はどんな競技になるんですか?
「『ボディフィットネス』は筋肉美の視点は女子フィジークとほぼ同様ですが、規定ポーズ、フリーポーズが無いのでスポーティーな振る舞いが重視されます」
なるほど、足まで鍛えた鋼の肉体の美しさを競い合うのが「ボディビル」、逆三角形によるしなやかな肉体を競うのが「フィジーク」、そしてしなやかな肉体の中で動きに特化した競技が「ボディフィットネス」になるそうだ。
そして今回の大会では、男子はボディビルのみで55kg級から60kg級、65kg級、70kg級、75kg超級に分かれて競い合い、女子は大きくボディフィットネスと、フィジークの二種類に分かれて、それぞれのクラスで、自慢の肉体の審美を競い合われた。
ちなみにボディフィットネス以外のクラスは、参加者多数のため、予選審査がおこなわれた。
横一列に立ち並び、課題で出されたポージングを次々にこなしていく。
闘うのは選手だけじゃない!? とにかく掛け声が凄い!
広いホールから漏れ聞こえてくる観客からの熱い掛け声と、パフォーマンスをおこなう選手たちの息遣い。そして妙な一体感が、会場で繰り広げられるパフォーマンスを盛り上げていた。
「21番のお尻がプリップリ―!」
21番の知人なのだろうか、全力で選手をサポートするべく、少し裏返った声で叫ぶと会場は笑いのあと拍手に包まれた。しかし、これで終わらないのがボディビルの声援の面白さ。
「24番のお尻だってプリップリだぞー!」
最初にかけ声を送った彼の、すぐ目の前に座っていた別の観客から声が聞こえてくる。
「21番の足は、飛び出すハムのようだ」
負けじと、最初の彼がそう大声をだすと、
「24番の腹筋が一番最高だー!」
と応じる。
予選審査で21番と24番が横並びになったとき、盛り上がった観客席の視線は二人の選手に集中した。
「21番と24番の夢の共演だー!」
誰かがそう言うと、選手を応援する声援であふれかえった。
まだ予選審査だというのにこの盛り上がり。21番と24番を応援していた二人は、審査が終わると、ハイタッチをした後、熱い握手を交わしていた。
決勝審査では音楽に合わせて、ポージングをとっていく!
課題をこなしていく予選審査の一方、決勝審査では、各選手が自ら選んだ音楽に合わせて、ポージングをとっていく。映画のサウンドトラックや、ハードロックの名曲が流れるたびに観客席からは熱狂の声が聞こえてくる。
一番盛り上がりを見せたのは、QUEENの『We Will Rock You』に合わせてパフォーマンスを行なった選手だ。楽曲のカッコよさと、選手の力強いポーズが合わさり、もはやそのパフォーマンスは芸術の域に達していた。
おそらくここでの選曲も高い評価を獲得するうえでは、非常に重要になってくるのだろう。
ボディビルコンテストは、観客を巻き込んだエンターテインメント!
ボディビル大会は筋肉の美しさを競い合いながら、選手だけでなく、観客を巻き込んで繰り広げられるエンターテインメントだった。美しい筋肉はもちろん、それをどう見せていくかも求められるのがボディビルなのだ。
選手の鍛え抜かれた美しい筋肉と、かけ声によるその不思議な魅力を体験しに、読者の皆さんも一度ボディビル大会を目撃してみては?
取材・文/須崎竜太