筋肉をつけて困ることはほとんどない
筋肉に対するネガティブなイメージを変えたい
NBAプレーヤーのように筋骨隆々の体を手に入れ、外国籍選手プレーヤーに負けないインサイドプレーヤーとなる。そして筋肉を否定する人たちの見方を自らのプレーで変えていくことが、小原選手の目指すところだ。
――小原選手の筋トレのメニューは現在も白井さんが決めているのですか?
小原:今も白井さんにメニューを組んでもらっています。筑波大学では彼はウエイト場の主みたいな感じで、なでしこジャパンの熊谷紗希選手や安藤梢選手、猶本光選手とかと一緒にトレーニングをしていました。
――そもそも筑波大学を選んだのは、筋肉や運動の研究をするためだったのですか?
小原:そうですね。遺伝子やタンパクを見る研究をしていました。マウスを使った実験をして、こういうシグナルが出ているからこの運動には効果があるとか、あとは提供してもらったサプリメントにどんな効果があるか調べる実験とか、筋肉に関わるいろいろな実験や研究をしていました。そういう研究室にいたんですけど、なかでも白井さんはいろいろなスポーツ界から注目されていて、先ほど名前を出したなでしこジャパンの選手を教えていたり、柔道の佐々木武志選手を教えたり、僕のようなバスケットボールプレーヤーを教えたりしていました。佐々木選手も同じ研究室で、本当に筋肉の話をしたら一生喋っているような研究室でしたね(笑)。
――そうした研究をしていたからこそ、筋肉について詳しいのですね。
小原:トレーニングをしている人はたくさんいると思いますけど、僕はそれなりに知識はあるほうだと思うので、そこに関してはプライドを持っています。
――ただ筋肉をつけるのではなく、使える筋肉をつけていくことがバスケットボールの競技者として大事なことですよね。
小原:そうですね。でも僕はボディビルダーやウエイトリフティングをやっている人を否定することはしないです。むしろ、「彼らはすごいんだぞ」ということを言いたい。
――それはどういうことですか?
小原:単純にあそこまで筋肉をつけるってすごいと思うんですよ。多くの人が勘違いしていて、「あれは使えない筋肉だ」って言います。でも確実に彼らのほうが重たいものを持ち上げますから、それだけ力があるということです。それでも「動けない」と言うなら、まずその重さを持ち上げてから言えよって話じゃないですか。そもそも同じ土俵に立っていないのに筋肉を否定するなということですよ。彼らは自分に対してすごくストイックだし、本当にすごいと思います。その人たちの代表というわけではないですけど、僕がバスケットボールもできて、それでいて筋肉もある選手という姿を見せることができたら、筋肉をつけると動けなくなるというネガティブなイメージを変えられるんじゃないかと思っています。
――筋力アップはバスケットボールの能力アップにも確実につながりますよね。
小原:はい。僕はよく皆さんに、「筋肉があって動ける人と、筋肉がなくてまあまあ動ける人、どっちにでもなれるって言われたらどっちになりたいですか?」って聞くんです。どちらにでもなれるなら、普通は筋肉があってカッコイイほうになりたいと思うじゃないですか。根拠もなく「筋肉はいらない」という人は、やっていないだけです。筋肉をつけるというのは、結構きついことをしてここまできているわけですから、それを一言で「動けない筋肉だからつけても意味がない」とは言われたくない。
――筋肉がつくことは筋力がつくことですからまったく意味がないわけがないですよね。
小原:筋肉をつけて困ることなんてほとんどないと思いますよ。筋肉がつけば力もつくし、基礎代謝が上がって太らなくなるし。今は少しブームというか、体重が増えてもいいから筋肉をつけて脂肪を燃焼させましょうという考え方が広がってきていますよね。脂肪と筋肉だったら、筋肉のほうが体積が小さくて重量があるので、体重は増えても見た目は締まった感じになります。だから重さではなく、見た目や体の質で判断したほうがいいと思います。
――身長と体重から肥満度を示すBMIだと、筋肉量が多い人はそのぶん体重も重くなるので、見た目は締まっていてもが体重の重さだけで肥満と評価されてしまうこともあります。
小原:BMIは一般の人には必要な指標かもしれませんが、アスリートの体と表す指標にならないですよね。そういうおかしい常識を変えていくためにも、自分から発信していきたいし、表現することと体現することをやっていきたいなと思いますね。
――Bリーグはまもなく新シーズンが始まりますが、外国籍選手にフィジカルで負けないところをぜひ見せてほしいです。
小原:日本人、アジア人がそこまでやれるのかというのを見せられれば自信になると思うし、筋肉があっても動けるんだというのをプレーで示して、筋肉に対してマイナスイメージを持っている人の考えを変えられたらいいなと思います。
――最後に今後の目標ややりたいことがあったら教えてください。
小原:バスケットボールを頑張るのはもちろんですが、いつかフィジークの大会とかに出たいと思っています。こういう大会に出る人で僕ぐらいの身長がある人はいないので、見た目の圧迫感も違うと思います。「デカくてデカイ」みたいな二段階のデカさを見せて、フィジーク界に革命を起こしたいですね。そういう世界にも飛び込んでみたいと思っています。バスケットで活躍しないと「コイツ、何言ってるんだ」と思われると思いますが、こんな選手もいるんだということを知ってもらえればいいかなと思います。僕自身バスケは全然うまくないと思っています。でもバスケに努力する気持ちは持っているし、それをやっていくのが当たり前なので、バスケットボールがうまくなるためにも筋肉は必要な要素だと思っています。
取材/佐久間一彦 撮影/安 多香子
1994年7月27日、神奈川県出身。筑波大学在学中に特別指定選手として富山グラウジーズでBリーグでデビュー。2018-19シーズンより横浜ビー・コルセアーズへ移籍した。198㎝、97㎏。ポジションはPF。横浜ビー・コルセアーズ