ボートはコアの強さが何より大事
彩り豊かな食事から栄養を摂る
――武田選手が考える、ボート競技に一番必要な筋力はどこだと思いますか?
武田:心臓(心肺機能)を除くのであれば、臀部、コアの部分すべてだと思います。極端なことをいえば、コアさえ強ければ他はいらないくらいです。
――一般の人がデートでボートを漕ぐときのイメージとしては、腕や背中が疲れるような印象があると思いますが、コアが何より大事ですか?
武田:コアがしっかりしている人は、腕も背中もついてくるので。だから僕は人から評価されて嬉しいのは、「胴が大きいですね」とか、「お尻が大きいですね」と言われることなんです。
――腕が太いとか、足がすごいとか言われるよりも、胴やお尻なんですね。
武田:「腕が太い」ってそちらに目がいくようだと、いまいちかなって思ってしまいます。「武田さん、胴回りが太いですね」って言われたら「そうだね」って感じで嬉しい(笑)。ボートは背中が見える競技なので、「背中が広いですね」と言われるのも嬉しいですけど、一番はコアです。コアさえできていれば故障もしないし、筋肉の出力も上がるので、今も変わらずそこは鍛えています。
――コアの部分というのは具体的にどういうトレーニングをするのですか?
武田:単純に一番重要だと思うのはスクワット。あとはハイクリーンですね。ハイクリーンは、加速も使えてボートとすごく似ているんです。タイミングとコーディネーションなので、まさにボートなんです。今は学生の練習も見ていますけど、ハイクリーンができる選手は、コーディネーションができるので、ボートでも効率的に力を出せるはずです。
――確かにハイクリーンの動きはボートに通じる部分もありますね。
武田:ハイクリーン、スクワット、それから腹筋類は全部やります。筋肉をつけるためではなくて、シーズン中も必ずトレーニングをして、刺激を入れるようにしています。
――ボートは陸上とは違って不安定なので、そこで力を出すためにもコア、体幹の強さが必要ということですね。
武田:そうです。不安定であるがゆえに、そこでどうやって力を出すか。それを意識したトレーニングが大事ですね。コアが緩むとどうしても力を出せません。ボートは座ってやる運動なので、すごく特殊なんですよね。骨盤が後傾するんです。後傾したところで力を出さないといけないので、腰には非常によくない運動だと思います。
――見るからにきつそうですね。
武田:だからこそ、なおさら自分の体を守るためにもコア部分のトレーニングはしっかりやらないといけません。
―――フィジカル的にきつい競技を続けてきていますが、練習方法は年齢とともに変化しているのでしょうか?
武田:練習の量とか質に関しては、若いときからそんなに変わらないです。ただ、若いときと比べると疲れが抜けにくくなりました。疲れが抜けないので、リカバリーをどうするかという点はすごく考えています。これは競技をやっている、やっていないにかかわらず、40代の人たちはみんなあることだと思いますけど、役職だったり、立場だったりがあって、しがらみというか、やらなければいけないことが増えますよね。
――練習だけをしていればいいわけではなくなるということですね。
武田:疲れが抜けにくくなることと、社会的にやるべきことが増えること。この二つが一番大きなところだと思います。
――リカバリーという部分では、練習後のアフターケア、食事面、どういったことに気を配っているのでしょうか?
武田:まずはいつも通り規則正しい生活をすること。朝起きて、運動をする。そして食事を摂る。お昼を食べて、また練習をして、夕飯を食べて、夜はしっかり寝る。普通のことを普通にやるというだけですね。
――起床時間、睡眠時間はだいたいいつも同じような感じですか?
武田:だいたい同じ時間に起きますね。ボートを漕ぐには朝が一番いい環境なんです。海の場合は朝凪、夕凪があるので、そこに練習をもっていきます。朝にボートを漕ぐと考えると、その時間に合わせて起きて、軽く栄養を入れてから練習をして、その後に朝食を摂って、昼間は少し休んで仕事に行きます。夕方の練習の前に少し栄養を入れて、またトレーニングをして、それから夕食をしっかり摂って就寝というスケジュールですね。
――生活のリズム、サイクルを崩さないことがコンディション維持のためにも大事なのですね。
武田:絶えず同じリズムでやっていくんですけど、年齢を重ねると社会的な立場であったり、他にやるべきことがあったりで、同じリズムでできなくなることもあります。それでも流されることなく、できる限り自分のサイクルを崩さない。これが第一ですね。僕はサプリメント類は摂らないので、食事から栄養を摂ることも意識しています。
――食事の面では何か気をつけていることはありますか?
武田:結婚して妻がいるので食事は任せているんですけど、できる限りたくさん色がある食事を摂るようにしています。
――彩り豊かな食事は大事だと言いますよね。
武田:パっと見たときに黄色だけになるとか、黄色と白だけとか。揚げ物がバーンとあってあとはご飯とかだと、栄養は偏りますからね。揚げ物は嫌いではないですけど、いろいろバリエーション豊かな料理を食べて、しっかり栄養を摂る。実家がみかん農家なので、みかんも食べ放題でビタミンもたくさん摂れますから。
――やっぱり食事はアスリートの基本ですからね。
武田:とにかく食事を豊かにする、楽しむということが大事ですね。だからそんなに特別なことはしていませんね。自分のリズムを極力崩さないようにすることと、食事から栄養をしっかり摂ることぐらいです。
――疲れが抜けにくいという部分で、特別にケアしていることはありますか。
武田:練習後にはすぐに栄養を入れるということです。そのために家を引っ越したんです。
――練習所の近くに引っ越したのですか。
武田:練習場から家まで200メートルです。早く帰りたい。早く食べたい。早く休みたいということです。移動が一番負担になるので、とにかく移動時間を減らしたかったんです。そうすることで有効に使える時間が増えますから。家と練習場が近くなって移動時間のストレスがなくなったのは大きいですね。
★次回はモチベーション維持の仕方のお話をお届け!
取材/佐久間一彦 撮影/須﨑竜太
1973年12月5日、愛媛県出身。DCMダイキ所属。1997年全日本選手権での男子シングルスカル優勝以後、同種目では2009年まで7年連続優勝を含む14回優勝の史上最多優勝記録を持つ(2004年及び2005年は海外遠征のため欠場)。96年アトランタ、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、12年ロンドンと5大会連続で五輪出場。2020年東京大会で6度目の五輪出場を目指す。