鍛え抜かれた身体と、不屈の精神で頂点を目指すパラアスリートを紹介するこのシリーズ。今回は、ウィルチェアーラグビーの島川慎一が登場。マーダーボール(殺人球技)と呼ばれるほど激しい車いす競技を20年近く続ける島川の身体はいかにしてつくられるのか? そのプレー人生とともに探っていく。
鍛え抜かれた上半身が
最高のチェアワークを可能にする
ウィルチェアーラグビーを観たことがあるだろうか?その名の通り、車いすで行うラグビーではあるのだが、その激しさは想像を絶するものがある。車いす競技で唯一コンタクトが許されており、フルパワーで相手の車いすに対して仕掛ける「タックル」はまるで交通事故のような衝撃を引き起こす。
現在43歳の島川慎一は、日本が初めてこの競技でパラリンピックに出場したアテネ大会から全4大会に出場し、2年後に迫った2020東京大会でも主力として活躍が期待される選手だ。
「ウィルチェアーラグビーには車いすをこぐ基礎スキルが必要ですが、まずはとにかく走り込むことが大切ですね。長い距離を走るというよりは、細かい動き出しが多いので、1こぎ目、2こぎ目の瞬発力が大切。コーン置いてその間をダッシュしたり、1回こいでバック、ターン、ダッシュなどを繰り返す練習などを行ないます」
障がいの程度によって選手毎にポイントが分けられ、島川はチームの中で「ハイポインター」と言われる障がいの重さは軽く得点源となるキーマンだ。プレーの特徴はエースの池崎大輔と並ぶスピード、そして経験から打ち出される高い判断力だ。他の車いすアスリートらと同様、長年のプレー、そしてトレーニングによって鍛え抜かれた胸板の厚さは、正面から見てもわかるほどだ。
「もちろん、ウエイトトレーニングもやっています。力強くこぐために、肩や上腕二頭筋、三頭筋を中心に鍛えています。8月にオーストラリアで世界選手権があって、大会前の期間は車いすに乗ってのトレーニングが主だったのでウエイトトレーニングは2、3週に一度くらいでしたが、10月の中旬の合宿まではオフに近いので、週に2度くらいに頻度を増やしています」(※取材は9月中旬に実施)
その上半身もさることながら、首の太さも並大抵ではない。ここも鍛えているのではないのか……。
「いや、首を鍛えるトレーニングはやってないですね。初めてウィルチェアーラグビーを体験した人は、その衝撃で首に負荷がかかるようです。タックルを受けた時に大きな力がかかる場所ですからね。実際、自分も初めて競技をやったときはそうですし、激しい試合の翌日はもう首がガチガチになります。だから首の強さも重要なのですが、プレーしているうちに自然に鍛えられていきますよ」
ひょうひょうと落ち着いた表情でそう語る島川だが、身体作りの面も含め、多くの困難や苦労を経て、現在の日本代表としてパラリンピックの金メダルを目指せるところまで上り詰めてきたはずだ。その人生やこれまでの苦難、そして目指す先については、次回からのインタビューで探っていきたい。
島川慎一のトレーニング動画はこちら↓
取材・文・撮影/木村雄大
島川慎一(しまかわ・しんいち)
1975年1月29日、熊本県出身。バークレイズ証券株式会社/BLITZ所属。21歳の時に交通事故により頚髄を損傷し車いすの生活となる。1999年よりウィルチェアーラグビーをはじめ、2001年に日本代表に選出されて以降、アテネ大会から4大会連続でパラリンピック出場。リオ大会では初のメダルとなる3位に輝く。また、埼玉県所沢市を拠点とするチーム・BLITZを2005年に創設(現在の本拠地は東京)。過去、日本選手権大会で8度の優勝を誇る。