子どもを持つ親にとって「期待」と「不安」はつきものです。
スポーツクラブやチームには学校とはまた違ったコミュニティがあり、その環境ならではの競争も生まれます。そして学校と違い、多くのスポーツ現場は親が観覧できるため、どうしても期待と不安が増長してしまうことがあります。
私はライターとして、これまでに様々なスポーツの現場や指導者の考えに触れてきました。
2人(男女)の子を育てつつ、自分自身も小学生時代から40代になる現在まで一度も途切れることなく複数のスポーツを続けてきました。20年以上のキャリアがあるサッカーでは指導者資格を取得し、コーチングもしてきました。少年チームの運営にも数年間たずさわりました。
このコラムでは、そうした経験から学んだこと、さらに専門家や指導者の方々の声を交えながら、キッズ(幼少年期)の育成現場のリアルに迫り、大人の関わり方を考えていきたいと思います。
先日、テレビで公文式が取り上げられていました。誰もが名前を知っている学習塾の老舗ですが、その指導法は、教えるというより、自発的に学ぶ姿勢を引き出すものだそうです。
『なぜ、東大生の3人に1人が公文式なのか?』(祥伝社新書)という本が出ているように、その手法は確かに成功を収めていると言えるでしょう。
積極性。これは本当に重要です。しかし、親の期待通りにその姿勢を示してくれる子どもは、そう多くはないと思います。公文式のノウハウが確立されているのであれば、今後はぜひスポーツの現場にも普及させていただきたいですね。
自分からヤル気を出させるには、なんらかの「楽しさ」が不可欠でしょう。ただ、その楽しさと「成長」の両立は簡単ではありません。
楽しさにこだわると、最短距離での成長を捨てなければいけなくなる場合もあります。かと言って成長ばかりをアツく追い求めると、どうしても楽しさから離れていってしまう可能性があります。
楽しく、伸ばす。
このテーマに、いかに多くの指導者が頭を悩ませていることか。
私自身の経験からも言えますが、大人――とくに親は最短距離の成長を求めがちです。その結果、子どもがそのスポーツを嫌いになり、やめてしまうという結末を数えきれないほど見てきました。
子どもにとってスポーツは遊びです。もちろんそうでない子もいますし、続けているうちに遊びの割合が減少して真剣勝負になっていくことはあります。しかし、遊びの気持ちが強いうちに大人が厳しく口を出しすぎると、「そんなに頑張らなきゃいけないなら、もうやりたくない」となってしまうのです。
この問題に完璧な解決法はないかもしれません。ただ、「楽しさ」と「成長」がうまく両立しているケースもたくさん見てきました。
その一例が「親が同じスポーツをやってしまう」というものです。中でも、「最初は子どものためだったけれども、いつの間にか自分自身がハマッってしまい、子どもそっちのけで頑張ってしまっている」というパターンは、いい効果を生み出すことが多いように感じます。
親が夢中になっている姿を見て、子どもにも「これは楽しいものなんだ」という情報がインプットされるのかもしれません。
親のほうもその競技の難しさを体感することで、口うるさく言う機会が減っていきます。むしろポイントを押さえた意見が言えるようになったり、わからないことを子どもに質問したりして、「一緒に成長していける」のです。
兄弟が同じことをやっているなら、そこまでする必要はないかもしれません。ただ、そうでない場合、あるいは一人っ子の場合などは、このように親が身近なライバルになってしまうのもアリでしょう。
「子どもは子どもで勝手に頑張ってくれればいいです。私は自分が好きでやってるだけですから」
親がそんなことを言うようになってくると、子どもが急に伸びだしたりするので不思議です。
繰り返しますが、これが正解とは限りません。
ただ、「楽しさは教えるものではなく、感じさせるもの」ということを示す一つの好例だと思います。
文/栗川剛