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痛み止めって副作用は大丈夫なの?【ドクター長谷のカンタン薬学 第4回】




風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、飲み方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。

Q.痛み止めって副作用は大丈夫なの?

(C)TamTam – stock.adobe.com

スポーツ選手は大なり小なりのケガを抱えていることが多いと思います。痛み止めを飲んだり、注射を打ったりしてプレーしている選手もいることでしょう。2018年のサッカーワールドカップの出場選手のうち、7割が鎮痛薬を使用していたと言います。使用された鎮痛薬の70パーセントがロキソニンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイズ)。スポーツ選手でも意外と普通の痛み止めを使っていることに少々驚きました。

NSAIDs以外にも痛み止めにはたくさんの種類があります。歯を抜くときなどに使用する局所麻酔剤、癌の痛みに対するモルヒネなどの麻薬系(オピオイド)鎮痛剤、抗うつ薬、抗てんかん薬、ステロイドといった鎮痛補助薬もあります。

一口に痛み止めといっても、痛みの止め方はさまざまです。NSAIDsは炎症、痛みを起こす物質の生産を抑えることによって痛みを抑えます(詳しくは後述)。アセトアミノフェンは、世界的にも広く使用されている解熱鎮痛剤で、NSAIDsとともに第一選択薬として処方されています。痛みをやわらげるメカニズムは完全には解明されていませんが、抗炎症作用は持たず、痛みのしきい値を上げることで感じる痛みをやわらげると考えられています。オピオイド鎮痛薬は、脳内の痛みを抑制する神経を活性化させることにより、痛みを感じさせなくする薬です。このオピオイドは鎮痛効果の差から、弱オピオイド鎮痛薬と強オピオイド鎮痛薬に分けられます。局所麻酔剤は末梢神経を一時的に完全に麻痺させることで痛みを抑えるものです。

痛み止めを使用する場合は、どういう痛みがあるのか、原因はどこにあるのかを理解した上で使うことが大事です。一般に、痛みの原因は、炎症や組織損傷による「侵害受容性疼痛」、神経が傷つくことによっておこる「神経障害性疼痛」、これらの2つで説明できない「心因性疼痛」の3種類があるからです。こうしたなかで、痛み止めの服用による副作用のことも含め、特に気をつけたいのがNSAIDsの使用法。

痛みや炎症、熱などを引き起こす物質にプロスタグランジンというものがあります。このプロスタグランジンは、体内でアラキドン酸という物質からシクロオキシゲナーゼという酵素の作用によって生成されます。NSAIDsはシクロオキシゲナーゼを阻害することで、プロスタグランジンの生成を抑えることにより、痛みや発熱を抑える作用があるのです。

しかし、シクロオキシゲナーゼにはいくつかの種類があり、そのうちの一つに胃粘膜保護に関わるものもあります。NSAIDsは痛みを抑えると同時に、胃の粘膜保護作用まで抑えて(なくして)しまうため、継続的に服用していると、胃潰瘍になったり、胃に穴が開いたりということが起こりうるのです。また、NSAIDsには腎機能を低下させる作用もあるため、特に高齢者の長期使用は避けたほうがいいでしょう。

NSAIDsと同じような効果を持ちながら副作用が少ないと言われているのが、アセトアミノフェン。こちらは市販の風邪薬にも主成分として配合されているもので、肝機能が弱い人には悪い場合があるとも言われますが、それほど大きな問題はなく、近年はこちらを使用したほうがいいという流れになっています。NSAIDsを使うとしたら急なギックリ腰など短期的に炎症を伴う大きな痛みがある場合。長期で使うと副作用の怖さがあるので、使うのであれば短期的な痛みに対してのほうがいいでしょう。

もう一つ、痛みは心理的な原因によって生み出されることもあります。腰痛では、約85パーセントの患者さんで痛みの原因を特定できないと言われており、うつ病、体調の低下などの心理社会的要因がその背景に潜んでいることがあります。こうした痛みの場合は、NSAIDsやアセトアミノフェンを飲んでも治りません。一方で抗うつ薬を処方すると、症状が改善するということもあります。痛みと心というのは非常につながっています。

スポーツをやっている方で、ケガは治っているはずなのに、痛みが消えないという場合は、もしかしたら心が痛みを生みだしているのかもしれません。そんなときは痛み止めに頼るよりも、むしろ気分転換をして、ポジティブな気持ちで練習に取り組むことのほうが大事だと思います。

 

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長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社