成功の絵を描く。勝者のメンタリティー【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第40回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 気づけば12月に突入。早いもので今年も残り1カ月を切りました。ゾウニスタの皆さんも正月のお雑煮が待ち遠しい日々を過ごしていることでしょう(ゾウニスタについては第38回コラム参照)。

さて、今年のスポーツ界はパワハラ問題がたびたび世間をにぎわせてきましたが、選手たちの活躍はとても素晴らしいものでした。平昌オリンピックでの日本選手団の活躍から始まり、サッカーワールドカップでの日本代表の奮闘があり、大坂なおみ選手(テニス)が日本人初のグランドスラム制覇を達成。桃田賢斗選手がバドミントン世界選手権で日本男子初の世界一に輝き、大谷翔平選手がMLBで新人王を獲得するなど、明るい話題も多々ありました。

パワハラ問題ばかりが取り上げられたレスリングでも、明るいニュースがありました。乙黒拓斗選手が世界選手権にてフリースタイル65㎏級で初出場初優勝。19歳10カ月での世界選手権制覇は、日本男子史上最年少という快挙でした。レスリングといえば女子がクローズアップされることがほとんどですが、男子レスリングには乙黒選手の他にも東京2020オリンピックで金メダルの期待がかかる選手が数多く存在します。

昨年の世界選手権でフリースタイル57㎏級を制した高橋侑希選手は、今年の世界選手権でも銅メダルを獲得。連覇達成とはならなかったものの、世界のトップレベルであることを証明しています。またグレコローマン59㎏級の文田健一郎選手も昨年の世界チャンピオン。同階級にはリオデジャネイロオリンピック銀メダリストの太田忍選手もおり、国内にいながら2人で世界一決定戦を繰り広げています。さらに今年のU-23世界選手権では、文田選手をはじめ、4人の金メダリストが誕生しています。これだけ多くの有望株がいるにもかかわらず、新聞、テレビはパワハラ中心の報道。くだらない報道をまき散らしている方々には、「それがあなたのやりたいことですか?」と聞いてみたいものです。

話が逸れました。さて、19歳、初出場にして世界一という快挙を達成した乙黒選手の強さの秘密はどこにあるのでしょうか? その原点を探るべく、小学生時代に現在の基礎をつくったゴールドキッズレスリングクラブに出向き、指導者で元女子レスリング世界王者の成國晶子さんのお話をうかがいました。

同クラブはこれまでに数多くの全国チャンピオンを輩出し、各カテゴリーで世界チャンピオンも生み出しています。その練習を見ていると、スパーリングや技術練習はもちろん、コーディネーションや基礎体力トレーニングも、練習のための練習ではなく、試合での体の使い方を意識したものとなっていました。足の運び方、重心の移動の仕方や相手の動かし方……。教えなくてもできる子がいる一方で、教えないとできない子も当然います。こうした体の使い方を早い段階から染み込ませることで、意識しなくてもできるようにするのがゴールドキッズ流。このあたりの詳しい内容は、後日、詳細な記事をアップするので少々お待ちください。

技術面、体力面だけでなく、メンタル面の充実も快挙を後押しした要因と言えるでしょう。乙黒選手は小学生時代から数々の大会で優勝し、高校時代はインターハイ3連覇をはじめ、タイトルを総なめ。高校2年時には世界カデット選手権で優勝し、その年代の世界一に輝きました。

彼にとって試合に出るということは、イコール優勝するということ。子どもの頃から大会に出れば決勝戦まで5~6試合闘うのは当たり前であり、19歳とはいえ膨大な試合数をこなしてきています。大会に臨むときの姿勢が優勝ありきだから、舞台が世界であろうと、国内であろうと、関係ないのです。勝ち続けてきたことによって、勝つためには何が必要かを理解しているから、どんな舞台、どんな選手が相手でも、勝利の絵を描くことができる。若くして勝者のメンタリティーができあがっていることが、強さの一つと言っていいでしょう。

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勝利の絵を描く。成功の絵を描く。これはどんな世界でも大事なことです。うまくいかないと思っている人のやることはうまくいきません。何かを始めるときは、まず成功の絵を描くことから始めるのです。成功の絵が描ければ、大抵のことはうまくいきます。乙黒選手はきっと東京2020オリンピックで、自分が表彰台の一番上に立つ姿もしっかりと描けているはずです。

ちなみに私は日本一をかけた舞台を4度経験しています。いずれも勝利の絵はハッキリと描けていて、優勝後のインタビューのことまで考えていたのですが、邪念が多すぎたせいかすべて負けてしまいました(一つは負傷による不戦敗)。ただし、成功の絵を描くことを日々繰り返してきたので、何かを始めるときはいつでも前向きな決断ができるようになりました。

めでたし、めでたし。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。