VITUP!読者の皆さん、こんにちは。月曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 昨日、「よいお年を!」と言っておきながら再び登場した編集長の佐久間です。2018年のうちにちょっと書いておきたいことがあったので、「週刊VITUP!」番外編として失礼します。
年内に書いておきたいことというのは、「天皇杯 全日本レスリング選手権大会」のこと。この大会では女子57㎏級の伊調馨選手と川井梨紗子選手による、“オリンピック女王対決”が大きな注目を集めました。ご存知の通り、両者は決勝戦で対戦して(予選リーグの初戦でも対戦)、伊調選手がラスト10秒でタックルを決めて3-2と逆転勝ち。見事な復活優勝を飾りました。翌日の新聞やネットニュースには、「劇的勝利」の文字が踊りましたが、個人的には計算され尽くした勝利に見えました。
女子57㎏級は出場選手が8名に満たなかったため(7名)、トーナメントではなく、予選リーグ方式を採用。抽選により、伊調選手と川井選手は初戦でぶつかることになりました。ここでは川井選手が2-1で勝利。両者とも慎重な闘いに終始したため、技によるポイントはなし。敗れたとはいえ、伊調選手にショックはなかったと思います。
翌日の決勝戦でも試合は予選のときと同じような展開。共に相手を警戒して守り重視の試合運びで、消極的な選手に課せられる30秒間のアクティブタイム(この時間内に得点を奪えないと相手に1ポイント入る)のみでスコアが動き、2-1と川井選手がリードします。きっと川井選手は予選リーグ同様、このまま逃げ切れると思ったのではないでしょうか。
リードされても伊調選手にはまったく焦った様子はありませんでした。予選リーグのときは、無理して得点を奪いにいくこともなく敗戦。結果論になりますが、手の内を隠していたように感じました。仕掛ければポイントを獲れるという自信があったのでしょう。問題はどこで仕掛けるかです。
全日本、世界レベルの闘いから遠ざかっていた伊調選手からしたら、川井選手が慎重に闘ってくれたことは好都合だったはず。最初からガンガン飛ばして仕掛けられると苦しい闘いになったと思われます。ただ、川合選手としても伊調選手のカウンターのうまさがわかっているだけに、仕掛けが慎重になります。相手の心理をよく考えて、伊調選手は予選リーグと同じように闘って、最後の最後に仕掛ければひっくり返せるという計算のもと、試合を進めていたように見えました。
結果的に1-2のビハインドから、ラスト20秒を切ったあたりで仕掛け、残り10秒でタックルを決めて3-2と逆転に成功。勝負を決めた時間帯は劇的ではありますが、これも予定通りでしょう。もしも3-2とリードした後に30秒でも時間が残れば、川井選手は死に物狂いで反撃をしてきます。その圧力を考えると、反撃時間を与えずに試合を終わらせたい。だから仕掛けは最後の最後まで我慢していたのだと思います。最後までポイントを獲れなかったのではなく、最後までポイントを獲りにいかなかったのです。計算していた(と思う)とはいえ、オリンピック王者を相手に、ラストワンチャンスで得点を奪いきる技術はさすがの一言。オリンピック4連覇女王の実力、駆け引きのうまさにうならされました。
しかし、2人の本当の勝負はこれからです。2019年6月には東京2020オリンピックへつながる世界選手権の代表の座をかけた全日本選抜選手権があり、川井選手にリベンジのチャンスがあります。川井選手が世界選手権の出場権を獲得するためにはこの大会で優勝、そしてプレーオフで伊調選手に勝つしかなく、今回とは違って攻める試合をするはずです。一方の伊調選手はさらに調子を上げていくことが予想され、2人の闘いは今回の何倍も激しいものになることでしょう。
女王対決の勝者は、そのまま東京2020オリンピックの頂点へと駆け上がる可能性も大。伊調選手、川井選手のオリンピック女王対決第2ラウンドが今から楽しみです。
文・佐久間一彦