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印象に残ったイチロー選手の言葉【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第56回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

先日、野球界のスーパースター・イチロー選手が引退を発表しました。数々の記録と記憶を残してきた偉大な選手をもう見られないと思うと残念な気持ちもあります。すでに多くのことが報じられているので詳細は割愛させてもらいますが、最後の記者会見のなかでとても印象に残った言葉がありました。

イチロー選手は日米通算4367安打を記録し、首位打者、最多安打、盗塁王、MVP、WBC優勝など、数々の栄光を手にしてきました。昨年5月、シアトル・マリナーズの会長補佐就任が発表され、2018年シーズンは試合には出場しないことがアナウンスされました。2019年以降の試合出場(日本開幕戦)に可能性は残していたとはいえ、1年間試合に出る予定はなく、他の選手と一緒に練習だけを行なう。これだけのキャリアと実績を持った選手にとって、試合に出ることなく練習する日々とは、どんな時間だったのか……。このことについて語った部分が何より印象に残りました。

「去年の5月以降ゲームに出られない状況になって、その後もチームと一緒に練習を続けてきて、それを最後まで成し遂げられなければ今日のこの日はなかったと思う。今まで残してきた記録はいずれ誰かが抜いていくと思いますが、去年の5月からシーズン最後の日まで、あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれない。そういうささやかな誇りを生んだ日々でした。どの記録よりも自分の中では、ほんの少しだけ誇りを持てたことだと思います」

どんな記録よりも、誇りに思える日々。試合に出られないとわかっていても、野球人として自分と向き合い、練習を積み重ねてきた日々。イチロー選手はイチロー選手であり続けるために、昨年5月からの一日一日を過ごしてきたのでしょう。大切なのは自分自身に対して恥ずかしくない生き方をするということ。イチロー選手にとって、試合に出られない昨年5月からの日々は、屈辱的なことだったかもしれません。しかし、そんな日々でも自分に対して絶対に恥ずかしくないような過ごし方をしてきた。だからこそ、あの日々を誇りに思うという言葉がでてきたのだと思います。最後の試合でヒットこそ出ませんでしたが、積み重ねた日々が何よりの誇りという言葉は強く印象に残りました。

また、「現役生活で一番我慢したことは?」という問いに対しては「僕は我慢できない人」と答え、「我慢が苦手で、楽なことを重ねている感じ。自分ができること、やりたいことを重ねているので我慢の感覚はないです」と続けました。常にベストコンディションをキープし、高いレベルで闘える心技体を整える。決して楽なことではないはずですが、イチロー選手はそれも当然のこととしてやってきたという証拠でしょう。

頑張ったからといって、努力したからといって、必ず成功するとは限りません。ただし、成功する人、うまくいく人は、絶対に頑張っているし、努力しています。そしてそういう人は自分から「努力しています」とは言いません。日々の積み重ねは人に見せるものではなく、自分の中に蓄積していくもの。それが自信と力になっていくのです。

一日、一日の積み重ねが大事なのは、他のスポーツや筋トレでも同じであり、仕事や勉強でも同じです。何もしなくても時間が経てば急に記録が伸びる、筋肉がつく。あるいは勉強や仕事ができるようになる……そんなことは絶対にありません。やらなければできるようにはなりません。「できないからやらない」ではなく、「できないからやる」のです。

誰もイチロー選手にはなれないけど、誰だってイチロー選手のように自分に恥ずかしくない日々を積み重ねることはできる。そんなことを考えさせられた年度末でした。

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。